第4話

脱出
18
2017/10/04 08:44
「うお!なんだこれ?」

今までいた住宅街とは全く違う風景が、僕の目の前には広がっていた。そこには、見たことのない、そしてこれからも見ることは無いだろうというような、独特な色の木々が生い茂っていた。
ふと視界の端で、クラクラしそうな奇抜な色とは正反対の、雪のように白いものが動いた。

(もしかしたら、あの白いねこかもしれない…)

なぜそのように思ったのかは分からない。ただ、突然異世界に迷い混んでいたからなのか、弟が消えたショックからなのか、僕はそのねこを頼る考えしか浮かんでいなかった。

(確か、黄色とピンクの木の間だったよな)

ねこの後を追いかける僕。「不思議の国のアリス」みたいだな…と、他人事のように思いながら進んでいく。しばらく歩くと突然森がひらけ、目の前には巨大な高層ビルのようなものが建っていた。
(ここで注意してもらいたいのだが、高層ビルのようなものであって、ビルにしては窓が1つもなかったため、「のようなもの」としている。)
辺りを見渡しても、そのビル以外は奇抜な色の木々がただ生い茂っているだけだった。僕は、最初この世界に入ったときのように、迷いながらも覚悟を決めて中へ進む。

無。無、無…。
ただそこには、真っ白な壁と床におおわれた部屋が広がっていた。振り返ると、そこには入り口が見当たらない。

(閉じ込められた…!)

直感的にそう思った僕の心臓が、ものすごいスピードでリズムを刻む。息が浅くなる。視界が白くなる。もう少しで意識が無くなるというところで、

「にゃー」

向かって右側、部屋の奥の方から、ねこの鳴き声が聞こえた。急に意識が戻った僕は、もう一度耳を澄ませてみる。

「にゃあ」

やっぱり聞こえる。ということは、この部屋の外にねこがいるんだ。僕は急いで、その声の主のもとへ走った。しかし、やはりそこは真っ白な壁しかなかった。もう少しこの壁を観察してみよう。
始めは、この世界に迷い混んだときのように、ただ通れば外に出られるのだと思った。手を伸ばしてみる。しかし、その手に伝わったのは、外の空気ではなく、固くヒンヤリとした壁の感触だった。
割れ目がないか調べてみる。声が聞こえたところに、幅3㎝ほどの亀裂が入っていた。でも、僕はびっくり人間でも超能力者でもないので、そんな場所は通れない。
万策尽きたか…。

「せめて小さくなれる薬さえあれば、この溝を通れるのになぁ。」

思わず声にでたその瞬間、それまで何もなかった真っ白な空間に、「ぽんっ」と音をたててテーブルが現れた。恐る恐る近付いてみる。なんとそこには、「小さくなれる薬」とかかれたビンが置かれていた。

怪しすぎる…。しかもなんなんだこの部屋は。こんなのまるで、「不思議の国のアリス」じゃないか。異世界に入ってから、二度目の同じ感想が出た。しかし、今この目の前にある、怪しい匂いがプンプンの薬以外、僕に頼れるものは無いのだ。
いや、僕は絶対に飲まないぞ!こんな薬に騙されるものか!

………。

「味はまあまあかな」

………。

要するに、僕はその薬を飲んだわけだ。あとは、ご察しの通り、小さくなった僕は先程の割れ目を通り、無事脱出することができた。

………。

色々な所からヤジが飛んできている気がするが、とりあえず進もう。

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