第4話

甲斐先生は優しい人です
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2017/10/07 06:28
「はーぁ、つかれたー」

舞子が大きく伸びながら言った。愛美や他の部員達も同じようなことを言っていた。部活が終わると中山はすぐに職員室に戻るから、何を言っても大丈夫だった。後輩達は「お疲れさまです…」と苦笑いをしていた。私たちが走っている間、テニスコートでも怒られていたらしい。すると突然、

「あっ!甲斐先生だ!」

愛美が言った。甲斐先生は男子のソフトテニス部の顧問だけど、私たち女子ソフトテニス部の事も気にかけてくれる。

「甲斐せんせーい!」

愛美と舞子が甲斐先生の元まで走り出した。

「あんだけ走ったのにまだ走る元気残ってんの?」

同じく3年生の岩井穂花(いわいほのか)が苦笑しながら言った。背が低くて可愛らしい子だ。

「ホントだよね」

そんな元気の残っていない残りのメンバーは歩いて甲斐先生の元まで行った。

甲斐先生のところでは愛美と舞子が必死になって中山の文句を言っていた。そんなことを言われれば、普通の先生は怒るのかもしれないけど、甲斐先生は違った。ニコニコしながら私たちの話を最後まで聞いてくれる。そして一段落すると必ず

「お疲れさん」

と言ってくれる。その後は「お前達が悪いんだよ」とか、「中山先生もお前達のために必死なんだよ」とかなだめる様に言う。それでも私たちがわーわー騒ぐと、

「大丈夫!お前らそんだけ元気残ってんだろ!頑張れよ!」

って声をかけてけれる。さらに甲斐先生は私たちがどれだけ中山の文句を言っても、その事を中山に伝えない。だからこそ、私達は普段から甲斐先生に対して自然と接することが出来るのかもしれない。だから、授業中も気が抜けて眠くなるのかも……。なんて、甲斐先生には言えないけど。

今日もひと通り私たちの愚痴を聞いてくれたあと、

「わかった、わかった、疲れてんならはやく帰って、沢山ご飯食べて、あったかいお風呂に入って、はやくねんねしなさい!」

と言った。それをきいた穂花が

「じゃあ、宿題はしなくていいですかー?」

と聞くと、

「何言ってんの、宿題も先生達からの優しさなんだから、しっかり受け取りなさーい。わかったら早く帰りなさーい!」

と言われた。甲斐先生の先生としての優しさを感じながら私は家へと帰って行った。

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カチッ ガチャ

私は誰もいない家の玄関を開けた。そこには、ご飯の匂いも、あったかいお風呂もなかった。


甲斐先生の暖かい言葉を受けた私の心もスーッと冷えていくような気がした。





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