午後からの部活はあんまり集中出来なかった。頭の中でずっと、甲斐先生のことを考えていた。
部活が終わってから、舞子に、甲斐先生と河野先生のことを聞いてみた。
「ねえ、舞子ー。甲斐先生と河野先生が付き合ってるって、ほんと?」
「うーん、わかんないんだけどね。真央が言ってたんだよね。真央が休みの日?に、買い物行ったら、2人が一緒に歩いてたんだって」
「見間違いとかじゃなくて?」
「まあ、真央の言ってる事だから、全部正しいとは限んないよね。甲斐先生も授業で使う道具とか買いに行くのはよくあること、って言ってたしねー」
「だよねー」
真央の言ってたことなら、100%正しいとは限らない。だけど、もし、ほんとに付き合ってたら…。考えるとよく分からない気持ちになる。
「っていうか、花音、そんなに興味あったのー?珍しくない?花音が恋話に興味出すって」
「え?そ、うかな?」
確かに私は、人の恋事情にも、自分の恋事情にも、そんなに興味はない。でも、甲斐先生のは気になった。
「!かのんもしかして!甲斐先生好きとか!?」
「は?いやいやいや、ないわー。だってさ、考えてみてよ。いくら甲斐先生が若いとは言ってもさ10歳差位だっけ?ないでしょ!」
「あははは!!そーだよねー!」
そう。絶対に無い。そう思いながら学校を出ようとすると、
「おーい、やーなーせー!さーとーう!」
後ろの方から名前を呼ばれた。振り返ると、サッカー部で隣の席の熊田大樹だった。少し離れたところで私たちに手を振っている。
「なにー!?」
舞子が叫ぶと、こっちこっち!という様なジェスチャーで手招きをされた。走って行ってみると、大樹だけではなく、他のサッカー部員もいた。大樹から
「あそこ、見てみ」
と言われ、指を指している方を見ると
「えっ?」
つい、声が漏れてしまった。甲斐先生が、河野先生の後ろから、抱きついていた。
「えー!!何あれ、何あれ!?」
舞子が興奮しながら大樹に聞いた。
「いや、なんかさ、俺達も、もう帰る所だったんだけどさ、人影が見えた気がしてさ、見てみたらさ、あんなことに…!」
「えー!やばくない!?」
先生達がいるのは、体育準備室。体育で使う道具とかが置いてある部屋。河野先生が体育の先生だからあの部屋に行ったんだろう。
見ながら、とても嫌になった。何に対してなのかは分からない。学校であんなことをしている先生達に対してなのか。それを面白がってみている私たちに対してなのか。どっちもなのか。
分からないけど、今すぐ帰りたかった。1人になりたかった。今だけは、誰もいない自分の家が良かったと思えた。今すぐ、今見たものを忘れたかった。
先生達は、私たちが見ていることにも気付かないまま体育準備室を出ていった。
私たちもそれに合わせて帰った。
帰り道がすごく長かった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。