「……………」
「どうした、花音?」
甲斐先生の車の中。いい匂いがする。その匂いに緊張してしまう。
「花音の家ってどこだっけ?」
「コンビニの近くです…」
「ああ!そう言えば!まだ付き合う前に、コンビニで会ったよね!」
運転している甲斐先生の横顔をチラッと見た。
「ふふ、何?顔になんかついてる?」
「えぁ!?いや、そういう訳じゃ…」
楽しそうに笑う先生につられて、一緒に笑った。
「あ、そこ左に曲がってください」
家までの道を案内する。
「まだ真っ直ぐ?」
「ミラーのところ、左に曲がったところです」
左に曲がって左側にあるアパートが、今私が住んでいる家。
「あ、ここです」
「ほーい。何号室?」
「3号室です」
車から降りるのが、少し残念だった。
「じゃあ、ありがとうございました」
お礼を言ってドアを閉めた。すると、車の窓が開いて、
「気をつけてな。なんかあったら連絡していいから。今日は疲れただろうから、ゆっくり休めよ。おやすみ、花音」
と声をかけてくれた。
「おやすみなさい………」
本当は、二人きりだったから、優翔って呼びたかったんだけど、恥ずかしくなってやめた。
笑顔で手を振って甲斐先生は帰っていった。
玄関を開けると、相変わらず静かな空間。すぐにお風呂に入った。お風呂から出てきて、ご飯を食べた。今日は作る元気がなくなるだろうと思って、昨日作っておいた。料理の腕は、自分で言うのもなんだけど、良くなっていると思う。
ご飯を食べて、宿題をする。そのまま気づけば12時になっている。明日の準備まで終わらせて寝た。
夢の中に甲斐先生、いや、優翔が出てきた。
すごく幸せだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。