「やっばいよ!やっばいよ!」
狂った様に飛び跳ねながら舞子が近づいてきた。
「ん?遂に狂ったね。どした?」
「テスト!」
「いつもやばいじゃん」
「そーなんだけど!」
「認めるのね」
「あのね、先生から!これ以上成績が下がっていったら!補習だって!」
「え、逆に今まではなかったんだ」
舞子は私の声が届いていないようで、急に動きを止めたかと思ったら、
「勉強!教えてちょんまげ!」
と私と大樹の手を取って頼んできた。
「え?俺も?」
大樹が嫌そうな顔をした。
「可哀想な友達のことを助けてよぉー」
必死で懇願する舞子に
「わかったよ。でも、部活もあるからあんま教えられないと思うけど」
舞子にはたくさんの事で助けてもらってきたから、私の答えは最初から決まっていた。
「しゃーねーなー、学年トップの大樹様がおしえてやるよ」
大樹も協力してくれることになった。
「ありがとぉー!!心の友よ!」
舞子が飛び跳ねながら喜んだ。それを前から見ていた甲斐先生が私たちに近づいてきて、
「花音、大樹、佐藤に教えてやってくれ。特に数学。」
舞子の頭に手を置いて先生が言った。
「いいか、佐藤。授業中起きていれば点数が取れるのに、いつも寝てるから取れないんだからな」
「うぅ、はいぃ」
舞子は本気で反省したのか、下を向いて答えていた。
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テストの結果で凹んでいた舞子も、部活になると何も無かったかのように元気を取り戻していた。
「舞子、調子いい!」
愛美が声をかけると、
「あたぼーよ!勉強がダメなら運動頑張る!うちのマザーが言ってた!」
舞子が普段から切り替えが早いのは、お母さんのおかげなのか。
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「頑張ったー!」
部活が終わって、自分で自分を褒める舞子と一緒に帰っていたら、
「甲斐先生はっけーん!」
遠くで男子と話している甲斐先生を見つけた。
「せんせーい!部活頑張ったー!」
「うん、いいことだけど、佐藤は勉強も頑張ろうなー」
「うひょう!」
舞子はテストのことを忘れていたようで、本気で驚いていた。
「花音、佐藤をよろしくな」
「花音、私をよろしくねー」
「はーい、よろしくされまーす」
楽しそうな舞子に手を振って、家に帰ろうとした。
「花音、今日はチャリ?」
甲斐先生に止められた。
「はい」
「明日からさ、歩いてこいよ」
「え、何でですか?」
「うーん……」
言いづらそうに口ごもったあと、周りを見渡すと、私の耳元に顔を近づけた。
「一緒に帰りたい」
言い終わって顔を離すと
「そういうことだから。まあ、今日は無理だけどさ。明日から。な?」
目をそらしたまま私は頷くことしか出来なかった。
「じゃ、また、明日」
「さようなら……」
家に帰っているあいだも、お風呂に入っても、ご飯を食べてても、顔の火照りが消えなかった。
だって、あんなに顔が近くに来て……!
布団に入って目をつぶると、思い出してしまってなかなか眠れなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。