終業式の日は、学校は午前中で終わりなんだけど、部活はそのまま始まる。だから、部活動生のほとんどが弁当を持ってきて、部活を始める。
今日の朝、いつもより早く起きて冷凍食品8割の弁当を作った。部活のメンバーで、成績表のことなんかを話しながら教室で弁当を食べていると、
「お!美味しそうな匂いがするじゃん」
教室に甲斐先生がやってきた。
「先生は?弁当は?」
舞子がご飯を口に入れたまま聞いた。
「今からコンビニ行って、買ってくるよ」
「作んないんですかー?」
「俺は朝から忙しいの」
「作ってくれる彼女はー?」
今までなら何の気なしに聞き流してたこの質問に、つい反応してしまう。別に、先生が私と付き合ってること言わないって分かってても、それでもドキドキする。
「彼女ー?いない、いない。そんなに暇じゃないんだって」
「えー?でも、河野先生とは、付き合ってたんですよねー?」
「だからー、あれは違うって」
笑いながら適当に言った言葉が、引っかかった。
『そんなに暇じゃない』
分かってる。本気でわたしに向かって言ってる言葉じゃない事くらい。でも、先生が忙しいのは事実だから、何となく落ち込んでしまった。それに、幸せすぎて忘れてたけど、先生は河野先生と付き合ってた。別れた理由までは聞けなかったけど、付き合ってたことは本当の事。河野先生は甲斐先生より、少し年上。どう頑張っても今の私じゃ適わない、大人の女の人。それなのに、どうして今は私と付き合ってくれてるんだろう。
「花音?どしたー?」
「ボーッとしてるよ?」
舞子と愛美に声をかけられてハッとした。
「いや、何でもないよ。大丈夫」
甲斐先生も、頑張れよーと言ってコンビニに行った。
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始まってすぐは集中出来なかった部活も、気づけば甲斐先生の事なんて忘れるくらい集中していた。
いつもみたいに生徒玄関で甲斐先生が来るのを待って、先生が来たら一緒に車に乗った。
「はぁー!1学期終わったなー!」
「そうですね」
「そういえば今日さ、弁当食べてる時、なんか考えことしてたの?」
「え、あ、いや、そういう訳じゃない…かな?」
「え、何?怪しいんだけど。なんかあったの?」
「……何でもないですよ」
言おうかどうか、迷ったけどやめた。だって、こういう事考えてるのって、重いって思われそうだったから。その後も先生はしつこく聞いてきたけど、教えなかった。
「もー、着いちゃったじゃん」
言葉とは違う、優しい表情で車を止めた。
「ありがとうございました」
車から降りようとしたら止められた。
「今日も一人?」
「はい。どうかしましたか?」
「寂しくない?」
「まぁ、静かですよ」
「俺、行こっか?」
「………?」
「花音家、上がってもいい?」
予想してなかった言葉に固まる私。そんな私を見ながら、「じゃあ、上がるね」と勝手に決めて、車から降りてくる先生。
今日は忘れられない終業式になりそう…かな?
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。