第32話

終業式のその後に始まるもどき。
234
2017/11/06 15:27
終業式の日は、学校は午前中で終わりなんだけど、部活はそのまま始まる。だから、部活動生のほとんどが弁当を持ってきて、部活を始める。

今日の朝、いつもより早く起きて冷凍食品8割の弁当を作った。部活のメンバーで、成績表のことなんかを話しながら教室で弁当を食べていると、

「お!美味しそうな匂いがするじゃん」

教室に甲斐先生がやってきた。

「先生は?弁当は?」

舞子がご飯を口に入れたまま聞いた。

「今からコンビニ行って、買ってくるよ」
「作んないんですかー?」
「俺は朝から忙しいの」
「作ってくれる彼女はー?」

今までなら何の気なしに聞き流してたこの質問に、つい反応してしまう。別に、先生が私と付き合ってること言わないって分かってても、それでもドキドキする。

「彼女ー?いない、いない。そんなに暇じゃないんだって」
「えー?でも、河野先生とは、付き合ってたんですよねー?」
「だからー、あれは違うって」

笑いながら適当に言った言葉が、引っかかった。

『そんなに暇じゃない』

分かってる。本気でわたしに向かって言ってる言葉じゃない事くらい。でも、先生が忙しいのは事実だから、何となく落ち込んでしまった。それに、幸せすぎて忘れてたけど、先生は河野先生と付き合ってた。別れた理由までは聞けなかったけど、付き合ってたことは本当の事。河野先生は甲斐先生より、少し年上。どう頑張っても今の私じゃ適わない、大人の女の人。それなのに、どうして今は私と付き合ってくれてるんだろう。

「花音?どしたー?」
「ボーッとしてるよ?」

舞子と愛美に声をかけられてハッとした。

「いや、何でもないよ。大丈夫」

甲斐先生も、頑張れよーと言ってコンビニに行った。

_________________

始まってすぐは集中出来なかった部活も、気づけば甲斐先生の事なんて忘れるくらい集中していた。

いつもみたいに生徒玄関で甲斐先生が来るのを待って、先生が来たら一緒に車に乗った。

「はぁー!1学期終わったなー!」
「そうですね」
「そういえば今日さ、弁当食べてる時、なんか考えことしてたの?」
「え、あ、いや、そういう訳じゃない…かな?」
「え、何?怪しいんだけど。なんかあったの?」
「……何でもないですよ」

言おうかどうか、迷ったけどやめた。だって、こういう事考えてるのって、重いって思われそうだったから。その後も先生はしつこく聞いてきたけど、教えなかった。

「もー、着いちゃったじゃん」

言葉とは違う、優しい表情で車を止めた。

「ありがとうございました」

車から降りようとしたら止められた。

「今日も一人?」
「はい。どうかしましたか?」
「寂しくない?」
「まぁ、静かですよ」
「俺、行こっか?」
「………?」
「花音家、上がってもいい?」

予想してなかった言葉に固まる私。そんな私を見ながら、「じゃあ、上がるね」と勝手に決めて、車から降りてくる先生。


今日は忘れられない終業式になりそう…かな?


プリ小説オーディオドラマ