「おじゃましまーす」
私のあとに続いて先生が入ってきた。
「うぉ!めっちゃ片付いてんね!」
「まぁ、一人しかいないんで…」
「あ、いや、そういう意味で言ったんじゃなくて!」
「ふふ、分かってますよ」
そんなに広くない部屋にあるソファに座った。隣に誰かが座ってるのは久しぶりだった。
「夜ご飯、何が食べたいですか?」
緊張して、顔が赤いのが自分でも分かったから、立ち上がって先生に顔を見られないようにして言った。
「花音………」
小さな声で何か言ったんだけど、よく聞き取れなかった。
「ん?何ですか?」
「んー、花音は何が作れるの?」
「ハンバーグとか、唐揚げとか、カレーとか、普通のやつしか作れないですよ」
「じゃあ、ハンバーグがいいな」
優しい笑顔を向けられて、ドキドキした。
台所でハンバーグを作っている間、先生は私が作っているところをずっと見ていた。
「何ですか?」
「ねぇ、今さ、二人だけしかいないよ?」
学校じゃ聞けない、先生の甘える声。
「そうですね」
「だからさ、今は先生じゃなくて、優翔がいいな」
さっきよりも近づいてきて、隣に立った。先生がどんな表情なのかは見上げないと分からない。
「だめ?」
「……いい…よ」
下を向いて答えた。先生……いや、優翔は、「やったね」と嬉しそうな声で私のほっぺを軽くつまんだ。
「何?」
「いや、花音が可愛いなーと思って」
「何それ」
「ほんとに。可愛い」
冗談でも本気でも、好きな人からの可愛いなんて照れる。
「ハンバーグ、もう出来ますよ」
つい、いつもの癖で敬語で話してしまった。
「あー!敬語じゃん!」
優翔を見上げると、頬を膨らませていた。謝らなくちゃいけないんだけど、普段は見れない表情が見れた嬉しさと、その可愛さに笑ってしまった。
「なに笑ってんだよー、このやろ」
「ごめん、だって、優翔可愛い」
私の言葉にまた、頬を膨らませたかと思ったら、そのまま正面からハグされた。
突然のことに頭がついていかなくて固まった。
「………………」
「花音?大好きです」
なぜか敬語だった。戸惑いつつも、
「こちらこそ、大好きです」
優翔の体に手を回して、私からもギュッとハグをした。
少しの間だけ、そのままの状態だった。
静かな空間に、ハンバーグが焼ける音だけが響いていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。