第33話

ハンバーーーグ!
198
2017/11/08 07:05
「おじゃましまーす」

私のあとに続いて先生が入ってきた。

「うぉ!めっちゃ片付いてんね!」
「まぁ、一人しかいないんで…」
「あ、いや、そういう意味で言ったんじゃなくて!」
「ふふ、分かってますよ」

そんなに広くない部屋にあるソファに座った。隣に誰かが座ってるのは久しぶりだった。

「夜ご飯、何が食べたいですか?」

緊張して、顔が赤いのが自分でも分かったから、立ち上がって先生に顔を見られないようにして言った。

「花音………」

小さな声で何か言ったんだけど、よく聞き取れなかった。

「ん?何ですか?」
「んー、花音は何が作れるの?」
「ハンバーグとか、唐揚げとか、カレーとか、普通のやつしか作れないですよ」
「じゃあ、ハンバーグがいいな」

優しい笑顔を向けられて、ドキドキした。

台所でハンバーグを作っている間、先生は私が作っているところをずっと見ていた。

「何ですか?」
「ねぇ、今さ、二人だけしかいないよ?」

学校じゃ聞けない、先生の甘える声。

「そうですね」
「だからさ、今は先生じゃなくて、優翔がいいな」

さっきよりも近づいてきて、隣に立った。先生がどんな表情なのかは見上げないと分からない。

「だめ?」
「……いい…よ」

下を向いて答えた。先生……いや、優翔は、「やったね」と嬉しそうな声で私のほっぺを軽くつまんだ。

「何?」
「いや、花音が可愛いなーと思って」
「何それ」
「ほんとに。可愛い」

冗談でも本気でも、好きな人からの可愛いなんて照れる。

「ハンバーグ、もう出来ますよ」

つい、いつもの癖で敬語で話してしまった。

「あー!敬語じゃん!」

優翔を見上げると、頬を膨らませていた。謝らなくちゃいけないんだけど、普段は見れない表情が見れた嬉しさと、その可愛さに笑ってしまった。

「なに笑ってんだよー、このやろ」
「ごめん、だって、優翔可愛い」

私の言葉にまた、頬を膨らませたかと思ったら、そのまま正面からハグされた。
突然のことに頭がついていかなくて固まった。

「………………」
「花音?大好きです」

なぜか敬語だった。戸惑いつつも、

「こちらこそ、大好きです」

優翔の体に手を回して、私からもギュッとハグをした。

少しの間だけ、そのままの状態だった。


静かな空間に、ハンバーグが焼ける音だけが響いていた。

プリ小説オーディオドラマ