俺は、花音たちの学年と一緒にこの学校にやってきた。
初めての学校が今の学校で、ゆとり世代なんて呼ばれている俺にとっては、文武両道が徹底されているこの学校は厳しく感じた。宿題の量もかなり多くて、先生という立場上は忘れてきた奴を指導しないといけないんだけど、辛いと思ったこともあった。
そんな中でも一番不安だったのが部活だった。当時の3年生からしてみれば、急にやってきた新米教師から指導されるなんて不安だっただろう。だから、少しでも役に立ちたくて必死でソフトテニスを勉強した。今でも勉強している最中だ。
俺が指導している隣のコートでは女子が中山先生から指導されていた。中山先生は校内では1、2を争う厳しい先生で、正直なところ俺だって怖い。
そんな中山先生の指導は女子だからといって容赦なかった。叩く、蹴るはないけれど、声を荒らげて起こっている様子は見る人によってはちょっと…という時もあった。それでも、必死に頑張っている女子のことをひっそりと心の中で応援していた。
女子と関わるようになったのは、花音たちが2年生になってからだった。去年は俺が3年生担当だったから関わりはなかったけれど、今年から2年生になったので関わるようになった。
特に佐藤舞子。こいつは誰にでも物怖じしない。相手が誰であれ自分を貫いていて、佐藤との初めての会話は
「先生って、なんか禿げそう」
これだった。確かに、毛は細い。だからと言って、今まで関わったことない人に突然、禿げそうはあんまりだろう。
そんな佐藤と一緒にいたのが花音だった。2年生の時は俺のクラスじゃなくて、数学を教えに行くだけだった。
花音の授業態度は素晴らしかった。話を真剣に聞いてるのが伝わるし、成績もよかった。そんな花音でも、たまにウトウトしていたり、爆睡していたりする様子は、普段からは想像がつかない分、可愛いな、なんて思ってしまった。
この時から既に、俺は花音に恋、していたのかもしれない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!