30分程してから、私のスマホがなった。
「えっ!?」
一人しかいない部屋の中で驚いて叫んだ。今日はずっと家で一緒にいるんだと思っていた。
返事をして、財布、ハンカチ、ティッシュ、ポーチをリュックに入れて、スニーカーを履いて家を出た。
「かーのんー!」
玄関を開けると車から優翔が手を振っていた。
「優翔!」
車まで走っていった。
「助手席乗って」
優翔に言われるがままに助手席に乗った。
「どこ行きたい?」
「え、ほんとに行くの?」
思ってもみなかった『デート』という言葉に頭がついて行かない。
「行きたくないの?」
「いや、そうじゃなくてさ!」
「そうじゃなくて?」
「……いいの?」
私は生徒で優翔は先生。もしも誰かに見つかれば問題になるのは避けられない。だから、デートできるなんて思ってもみなかった。
「いいに決まってるじゃん」
「でも、だって、」
「誰かに見つかったらって?」
「うん……」
私が頷くと、優翔は頭に手を置いてきた。頭に手を置かれるのは今日2回目。
「まぁ、確かに見つかったら問題だけどさ、今はそんなこと気にしないの。デートしたいからデートするの。見つかったらそん時はそん時だよ」
笑いながら言う先生に、なんとなく大丈夫だと思ってしまった。
「そういう訳だからさ、どこ行きたい?」
「うーん……どこだろ…?」
デートできることにワクワクしすぎて、何も思いつかなった。
「じゃあさ、俺が行きたいとこでいい?」
「うん」
「買い物行きたいんだよね、いい?」
「うん!」
ショッピングモールに向けて出発した車の中で、さっきは慌てていて見れなかった優翔の服を見た。
adidasのロゴが描かれた白のTシャツに黒のパンツ。シンプルで優翔によく似合っている。黒の丸メガネも可愛い。
「ふふ、恥ずかしいんだけど。そんな見られると」
「うん」
「うん、じゃなくて」
「えへへ」
私服の優翔が見れた喜びに浸っていると
「カッコイイ?俺」
「自分で聞くの?」
「へへ、良いじゃん。どうよ?」
「…うん、かっこ…いいよ」
「花音も可愛いよ」
さっきからずっとドキドキしっぱなしだ。
「あ、ありがとぅ」
ドキドキしながらショッピングモールに着いた。
初めてのデート……誰にも会いませんように!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。