舞子のテンション高めの声とか、大樹のふざけてるのか真面目なのかよく分からない言葉とか、久しぶりに聞くとすごく嬉しかった。誰もいない家だと話す人がいないから、学校が唯一のコミュニケーションの場だったのに、夏休みで部活もなくなると、人と接することがなくなっていた。
だからなのか、久しぶりの人とのコミュニケーションはすごく楽しくて、気がつけばもう18時だった。まだまだ明るいとは言え、受験生。19時、20時を過ぎれば親から連絡が入る。それに、大樹が塾があるというので帰ることになった。
「夏休み、まだまだこれからだから!また遊ぼう!」
夏休みの宿題は一週間前に慌てて始める派の舞子は、まだまだ遊びたかったらしい。
「ふふ、一応受験生なんだから勉強もね」
少し会話をして、それぞれの家へと帰っていった。
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静かな家の中で一人、宿題をしていると私のスマホが鳴った。宿題をしている時は少し離れたところに置いているので確認しようと立ち上がった。確認しようとすると玄関のチャイムが鳴った。スマホを置いて玄関を開けると
「かーのん!」
部活終わりの格好をした先生が立っていた。
「先生!どうしたんですか」
「今日は酔ってないから大丈夫だよー」
「いや、そうじゃなくて…」
「LINE、送ったよ」
「え?」
慌ててスマホを確認すると、さっき先生が来る前にきていたLINEは先生からのもので「来ちゃったよー😄」と送られてきていた。
「とりあえず上がってください」
「ありがとー」
「久しぶりに花音の顔見れたなー」
「そうですね」
ソファに座ると顔を手で挟まれた。
「け・い・ご!」
「ほ!ごめん!分かった!!」
「もー、いつも敬語ー」
「ご、ごめん」
二人でいる時はタメ口。そう決めたけど、なかなか敬語が抜けなかった。
「いいんだけどね、敬語でも。でも、タメ口の方が距離が近い感じするじゃん?」
優しい口調でそう言った。
「うん」
私が頷くと優しく笑ってくれた。その笑顔に胸がきゅんとした。
「それで?今日はどうしたの?」
恥ずかしさを隠しながら優翔に尋ねた。
「顔を見に来ただけ」
「なにそれ」
「ふふ、うそ」
「えー?なに?」
なかなか話してくれないのでじっと顔を見ているとゆっくり口を開いた。
「…旅行に行かない?」
「え?」
「二人で、旅行」
「りょ、こう?」
「うん、あんまり遠くにはいけないけどさ、どこがいい?」
頭の中はパニックだった。
「え、え?い、いつ?部活あるでしょ?」
「お盆だよ。お盆は部活が休みだから」
「そっか……」
「行かない?」
「ううん!行く!」
二人で一緒に予定を立て始めた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!