どれくらいの間だったのかは分からない。一秒にも満たない触れるだけのキスだったような気もするし、すごく長い間キスしていたような気もする。
とにかく、キスした。これだけは分かった。
別にキス自体は初めてじゃなかった。初めてのデートの時、プリクラをとる時にキスされた。でも、その時はほっぺだった。でも、今私がしたのは唇。
私よりも優翔の方が驚いていた。お互い何も言わない、静かな時間が流れた。これまた、どのくらい時間が経ったのかは分からなかった。
体は向き合っていたけど、目線は交わらなかった。恥ずかしさで私が下を向いていると、優翔が動くのがわかった。ドン引きされた?それとも、何もなかった?不安と恥ずかしさで心臓の音が大きく聞こえた。
じっとしていると、優翔から抱きしめられた。優翔の方が大きくて、包み込まれる形になった。顔は見えないけど、優翔もドキドキしているのだろう。少し震えている。
「好きだよ。好きだけど」
頭の上から優翔の声がした。
「好きだから、今は何もしない」
「…え?」
「今すぐどうにかしたいけど、好きだから、しない」
優翔の言ってる意味が、わかった。私だってそれなりの知識はある。
「我慢出来なくても、今は、手繋いで、ハグして、キスするまでで終わり」
「……うん」
「好きだから」
優翔は、私に伝える、というより自分に言い聞かせていた。我慢させてしまっている。私がまだ子供だから。
「我慢させてごめん」
小さな声で言ったけど、優翔には聞こえたらしかった。
「ううん、違う。花音とずっと一緒にいたいから。その為には大事なこと」
いくら口ではそんなことを言っても、我慢させてしまっているのは事実。優翔がさっき「俺でいいの?」なんて聞いてきたけど、それは私のセリフだ。
「私でいいの?」
「え?」
心の中で思っていたことが口から漏れてしまっていた。
「優翔の方こそ、私でいいの?」
「当たり前じゃん」
「15歳で中学生で、生徒だよ?まだ、子供だから優翔にたくさん我慢させてる」
こんなこと言ったって、何にもならない。優翔を困らせてしまうのに。
「ごめん、花音もこんな気持ちだったんだ」
「……なに?」
「俺がさっき、俺でいいの?って聞いた時、こんな気持ちだったんだなって思って」
「…そうだよ」
私を抱きしめている優翔の腕の締め付けが強くなる。
「ダメなわけないよな。好きなんだから」
そのまま「んーー」と優翔が小さくうなった。抱きしめていた腕を離して、今度は優翔からキスされた。
「うん、おやすみ」
「……ぅ、ん」
ベッドの電気も消して、部屋が真っ暗になった。
優翔の表情は確認出来ないけど、真っ赤になっているだろうか。
少なくとも私は真っ赤になっている。
その日、夢を見た。私と優翔と子供の3人で楽しく笑っている夢だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。