第62話

自慢じゃん。
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2018/01/04 17:03
「なぁー、ちょっとさー、聞いてくんねー?」

体育祭まで残り一週間を切った頃、大樹から話しかけられた。

「いいけど…?」

放課後、普段は応援の練習とか、実行委員の準備とかで使っている教室に、私と大樹の二人だけが残っていた。その他のメンバーは、グラウンドで当日に向けてのチェックをしている。

「グラウンド、行かなくていいの?団長さん」

机や椅子が運び出されて、広く感じる教室の真ん中に、我がクラスの団長は大の字で寝転がっている。

「んー、いいだろ別に」

責任の感じられない言葉を吐く。

「俺について来いー!って言ってたのに」

私の言葉に、ふん、と鼻で笑う。

「あれは、本気。だけど、たまには休憩も必要だろ?」

にやっと笑いながら私を見てくる。

「そういう柳瀬はなにしてんだよ?」
「舞子を待ってるの」
「あぁ、そっか」

楽しいこと大好きな舞子は、もちろん体育祭も大好きで、自ら実行委員長に立候補した。体育祭が嫌いなわけじゃないけど、実行委員は面倒くさくてやりたくない。これがみんなの本音だから、舞子が立候補してくれたおかげで、話し合いをすることはなかった。

「それで?私は何を聞くのかな?」
「んー…」

自分から聞いてほしいと言ってきた割には、なかなか話し出さない。

「なに?言いづらい感じ?」
「まあ、うん。そんな感じ」
「じゃあなんで聞いてほしいとか言ってきたの?」
「いやー、なんか、聞いて欲しいんだけど、言いづらいみたいな?」

大樹の言いたいことは分からなくもなかった。

「それで?どうすんの?話すの?話さないの?」

「んーんー」と散々悩んだ末、ようやく話し始めた。


「俺さ、モテるじゃん?」
「自分で言っちゃう?」
「いや、実際本当のことだし」

まあ確かに、顔は悪くないし、性格も基本的には優しい。サッカー部で運動ができて、頭もいい。神様も色々与えすぎだろ。

「なに?自慢?」
「いや、それでさ、後輩の子から告白されたんだよね」
「自慢じゃん」
「断ったんだけど」

お互いの言葉をスルーしながら会話を進めていく。

「なんでですか、ってすごい聞いてきて。彼女いるんですか?とか、好きな人いるんですか?とか」
「モテる男は大変だねぇー」
「言えるわけないじゃん?陸が好きだから、なんて」
「急にそんなこと言われても信じてもらえないでしょ」
「だから、俺決めた。陸に告白する」
「……えっ!?」

軽く聞いていた話が突然大事な話になって驚く。

「え、ほんとに?すんの?告白?」

驚き過ぎて倒置法になってしまった。

「…おう、体育祭終わったら本気で、する」
「そか…いいと思うな、うん。夏休みに舞子が言ってたことが本当なら両想いなわけだし」

私の言葉にひと安心した様子の大樹は起き上がって宣言した。

「俺、熊田大樹は!川崎陸に!小学校の時のこと、ちゃんと謝って!そんで告白する!」
「いいねー、男らしくてかっこいいじゃん」

私の言葉に笑顔を返すと、

「待ってろよ、陸」

自分に言い聞かせる様に呟いた。



私たちを撫でていく風はまだまだ暑い。












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