楽しかった体育祭も、ついに終わりを迎えた。私たち赤組は、嬉しいことに優勝できた。大樹の頑張りが認められたみたいで、すごく嬉しかった。
「応援団長努めさせてもらった、熊田大樹です」
閉会式が終わって、応援団長から最後の挨拶。大樹らしい、かっこよくて、でもカッコつけてない言葉だった。その目には少し涙が浮かんでて、つられて舞子は大号泣してた。
「赤組、サイコーでした!」
かっこいい笑顔で挨拶は終わった。
「大樹も舞子も、お疲れ様」
片付けが終わって、今まで通りの姿に戻ったグラウンド。その端っこで、私たち3人は話していた。
「なーんか、あっという間だったなー」
大きく伸びをして、舞子が座り込む。
「こうやってさ、どんどん終わっていくんだよねー」
砂に絵を描きながら、呟く。
「そういえば、借り物競争の時、陸くんとなんか話したの?」
「そういう佐藤こそ、航大となんか話したのかよ」
舞子は大樹からの質問を無視して続ける。
「謝りたい人、だったよね?謝れた?」
「気になる人、だったよな?告白できたのかよ」
お互いに話を譲らない。
「放送委員無視して、陸くん連れてどこ行ってたの?」
「航大連れて、どこ行ってたんだよ」
私を挟んで会話じゃない会話を続ける二人。
「もう、全然会話になってないじゃん。私が聞くから、ちゃんと答えて」
仕方なく、私が仲裁に入る。
「二人とも、ちゃんと告白できましたか?」
二人が頭を上下に振る。
「素直でよろしい。次の質問です。返事はどうでしたか?大樹からどうぞ」
少しの間があって、ゆっくり口を開く。
「…謝ったら、いいよって。こっちこそごめんって言ってくれて。それから、好きだ、付き合いたいって言ったら…」
そこで一旦言葉が止まる。
「……こちらこそって…付き合うことになりました…」
珍しく恥ずかしそうに照れる大樹。
「おめでとう、良かったね」
私の言葉に笑顔で頷く。心なしか幸せそう。
「次は舞子、どうぞ」
大きく息を吐いて、話し始めた。
「あの後、ちゃんと言った。気になるっていうのは、好きな人って意味だってこと」
その時のことを思い出しているのか、目を閉じる。
「そしたら、驚かれて、俺から言いたかった、って……」
そこまで言うと、とびきりの笑顔になる。
「俺も好きだって!付き合うことになっちゃった!」
勢いよく立ち上がって叫ぶ。舞子の笑顔は、周りの人を幸せにする力がある。
「おめでとう!」
そのままの勢いで舞子が抱きついてくる。大樹も巻き込んで、3人でくっつく。
「私、花音と大樹と、出会えてよかった!ありがとう!」
WANIMAの歌詞みたいな言葉を、恥ずかしげもなく言う舞子。
嫌そうな顔をしながらも、何も言わずくっついたままでいてくれる大樹。
傾き始めた夕日に照らされて、私たちの体育祭は幕を閉じた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。