昼ごはんは、コンビニで買ってきて食べた。私が作るつもりでいたんだけど、優翔の冷蔵庫の中には3本のビールと、冷凍されたおつまみ用の枝豆ひと袋しかなかったから諦めた。
昼ごはんを食べたあとも、何をするでもなくゴロゴロしていた。12月にしては暖かい日差しが部屋の中に差し込んできて、心地よい温かさの中で気づいたら寝てしまっていた。
「かーのん」
「ん……………?」
なんだかとても幸せな夢を見ていた時、その幸せの元となるような声が私を呼んだ。
「もう6時になるけど?」
「ん…」
目覚めたばかりの私の体を起こす。外を見ると、日は沈み、かなり暗くなっている。
「真っ暗だ…」
外を見て、思ったことをそのまま口に出す。
「うん、どうする?もう帰る?」
優翔の声が、いつもよりも優しく甘く聞こえる。なんでだろう。考えようとするけど、頭はしっかり働かない。だから、
「やだ、帰らない」
こんなことも、言えてしまう。
「え、帰んないの?」
「やだ」
隣に座る優翔の少し驚いた声。だけど、すぐに温かい雰囲気が伝わってくる。
「お昼寝したら、甘えん坊花音ちゃんになっちゃったのかなー?」
まるで、小さな子供を相手にしているような喋り方で私の肩を引き寄せる。
「そっかー、でも明日は残念ながら部活があるんだよなー」
セーターから出ている私の指を、自分の指に絡ませながら話す。
「じゃあさ、今から外出る?」
「ん?」
「ほら、今日はクリスマスだからさ、イルミネーション、見に行こっか?」
優翔の体温を感じながら、私は頷く。
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「おぉー!やっぱ綺麗だなー!」
優翔の家から車で5分ぐらいのところに、この辺の人だったら誰でも知ってるような、イルミネーションを毎年やってる通りがある。近くの駐車場に車を停めて、車から降りる。
お昼は太陽の日差しが心地よかったけど、夜になると、一気に寒くなっていた。
「毎年見てるはずなのに、毎年綺麗だなー、って思うんだよなー」
優翔の言葉を聞きながら、ふと思った。私が優翔のこと、__先生のことを__好きになった理由。それは多分、綺麗なものを綺麗だって思えるところだと思う。
2年生で、数学の先生として初めて関わるようになった時、先生が言っていた。
『俺はね、春は桜、夏は花火、秋はもみじ、冬は雪、っていう定番中の定番が好きなんだよね』
この時皆からは、「そのまんますぎー!」とか「単純じゃーん!」とか色々言われていたけど、私はそうは思わなかった。綺麗なものを綺麗だと思える。いいことだな、と思った。もしかしたらこの時から、私は先生に惹かれていたのかもしれない。
「花音?まだ寝てる?」
「ううん、イルミネーション、すっごく綺麗だなーって」
私が答えると、優翔が何も言わず手を伸ばしてきた。だから私も、何も言わずに手を伸ばした。
私の恋人、サンタクロースです。
なんてね。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!