真剣な目。真剣な声。全てに溺れてしまいそう。
「目、逸らさないで」
逆らえない。優翔の顔を見る。すると、上着のポケットに突っ込んでいた両手を出した。その右手には、何かが握られていた。
「これ、さ。本当は卒業してからかな、とか思ってたんだけど………」
優翔の右手に握られていたのは、細長い箱だった。
「もうちょっと近づいて?」と言われ、そんなに離れていなかったのに、さらに近づく。
「で、あっち向いて?」
言われるがまま、後ろを向く。すると、優翔の腕が私の首元に回ってくる。
「うーん、ん?お、よし!こっち向いて?」
もう1回振り返る。すると優翔は、初めは驚いたような顔をして、それから頷いて、もう1回目を見開いて、照れた。
「これ……!」
私の首には、銀色の綺麗なネックレスがかかっていた。
「いやー、やっぱめっちゃ似合うな」
「え?これ?」
訳が分からず何も言えないでいる私を、ふふっと笑うと、スマホを取り出し写真を撮った。
「ほら、可愛い」
スマホには、間抜けな顔をした私の首元に綺麗なネックレス。
「これ、どういう……?」
「いやー、本当は卒業式に渡そっかなー?とか思ってたんだけど、昨日、花音がめっちゃ不安なんだなーって分かって。それで、今渡しちゃおう!みたいな?」
あまりの嬉しさに言葉が出ない。代わりに出てきたのは、
「えー!なんで泣いてるのー!」
「わ、かんないっ、けどっ」
大量の涙だった。
「ほらほら」
私を抱きしめてくれる。あぁ、幸せだ。私、多分今、ブータンの人より幸せだよ。
だって、こんなに愛してくれる人がいるんだもん。
「私、何にもあげられるもの、ない」
涙が落ち着いてから、私たちは砂の上に座って、海を見ていた。
「花音は、いるだけで十分」
恥ずかしいセリフに、冬だというのに体が熱くなる。
「志望校合格が、俺にとって一番のプレゼントだよ」
「それ、先生としてでしょ?」
「いやー、正確には、中学校をちゃんと卒業することかな?」
「そんなの、卒業するに決まってんじゃん?」
不思議に思って私が聞くと、「ははっ!鈍感だなぁ」と、笑われてしまった。
「そうじゃなくてさ?わかんない?卒業したらさ?」
卒業したら?私は高校生になる。…………あっ!
「……分かった、かも…」
そうか。卒業したら、私は高校生。だけど、先生は、これから先もずっと『中学校の数学の先生』のままだ。
私たちは、『先生と生徒』じゃなくなる。
つまり、堂々と
『恋人』になれる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!