第80話

ブータンの人より幸せ。
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2018/02/10 12:19
真剣な目。真剣な声。全てに溺れてしまいそう。

「目、逸らさないで」

逆らえない。優翔の顔を見る。すると、上着のポケットに突っ込んでいた両手を出した。その右手には、何かが握られていた。

「これ、さ。本当は卒業してからかな、とか思ってたんだけど………」

優翔の右手に握られていたのは、細長い箱だった。

「もうちょっと近づいて?」と言われ、そんなに離れていなかったのに、さらに近づく。

「で、あっち向いて?」

言われるがまま、後ろを向く。すると、優翔の腕が私の首元に回ってくる。

「うーん、ん?お、よし!こっち向いて?」

もう1回振り返る。すると優翔は、初めは驚いたような顔をして、それから頷いて、もう1回目を見開いて、照れた。

「これ……!」

私の首には、銀色の綺麗なネックレスがかかっていた。

「いやー、やっぱめっちゃ似合うな」
「え?これ?」

訳が分からず何も言えないでいる私を、ふふっと笑うと、スマホを取り出し写真を撮った。

「ほら、可愛い」

スマホには、間抜けな顔をした私の首元に綺麗なネックレス。

「これ、どういう……?」
「いやー、本当は卒業式に渡そっかなー?とか思ってたんだけど、昨日、花音がめっちゃ不安なんだなーって分かって。それで、今渡しちゃおう!みたいな?」

あまりの嬉しさに言葉が出ない。代わりに出てきたのは、

「えー!なんで泣いてるのー!」
「わ、かんないっ、けどっ」

大量の涙だった。

「ほらほら」

私を抱きしめてくれる。あぁ、幸せだ。私、多分今、ブータンの人より幸せだよ。

だって、こんなに愛してくれる人がいるんだもん。


「私、何にもあげられるもの、ない」

涙が落ち着いてから、私たちは砂の上に座って、海を見ていた。

「花音は、いるだけで十分」

恥ずかしいセリフに、冬だというのに体が熱くなる。

「志望校合格が、俺にとって一番のプレゼントだよ」
「それ、先生としてでしょ?」
「いやー、正確には、中学校をちゃんと卒業することかな?」
「そんなの、卒業するに決まってんじゃん?」

不思議に思って私が聞くと、「ははっ!鈍感だなぁ」と、笑われてしまった。

「そうじゃなくてさ?わかんない?卒業したらさ?」

卒業したら?私は高校生になる。…………あっ!

「……分かった、かも…」

そうか。卒業したら、私は高校生。だけど、先生は、これから先もずっと『中学校の数学の先生』のままだ。



私たちは、『先生と生徒』じゃなくなる。


つまり、堂々と



『恋人』になれる。






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