第74話

怖かった。
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2018/02/03 06:45
車の中は沈黙だった。どっちから話しかけるべきか分からず、ただ車の音が響くだけだった。

本当は、さっきのこと聞きたいけど、聞いていい事なのかとか、聞いたら重く思われてしまうんじゃないかとか、色んなことを考えてしまう。


だってもう、好きな人が離れていくのは怖いから。
「さっきのことなんだけど…」

先に話し始めたは先生だった。

「聞こえてたと思うんだけど、ゆ…河野先生の話」

ゆ…って、ゆいか、って言いかけたのかな。河野先生の下の名前、ゆいかだったような気がする。普段はゆいかって呼んでるのかな。

「先生はあんなこと言ってたけど、俺はよりを戻すつもりはないから」

正面を見たまま、はっきりと言ってくれる。いつもなら安心できるけど、さっきの河野先生の目。本気なんだと思うと、安心にはならない。

「俺が好きなのは、かの…」
「ゆいかって、呼んでるんですか?普段は」

先生の言葉を遮った。先生から好きって言われてしまうと、聞けなくなると思ったから。

「え?えと……」

すぐには答えてくれなかった。迷っているみたいだった。

「本当のこと、教えてください」

あえて、運転席は見なかった。見てしまうと、ビビっちゃうから。

「……学校の外では、ゆいかって呼んでる。だけど、なんか意味がある訳じゃなくて、ただ、その………」
「付き合ってた頃の呼び方で呼んでるだけで、意味は無い、ですか?」
「……うん」

気づけば私の家に着いていた。だけど、降りられるような雰囲気ではない。

「そうですか。じゃあ、別に大丈夫ですよ。気にしてないですから」

できるだけ平然と。心の中がばれないように声に出した。

「明日も学校だから、もう、降りますね」

車から降りて、運転席の方に回る。先生を見送ってから、家に入る。

玄関を開けると、寒い空気が私を包む。

お腹は空いていたのに、作る気にもならず、食べる気にもならなかった。

いつもなら、思ってることをちゃんと先生に言うけど、今日は言えなかった。

嫌われたくなかった。めんどくさいって思われたくなかった。




また、大切な人がいなくなるのは怖かった。

寒くて静かな空間で、一人涙を流した。

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