「さっきのことなんだけど…」
先に話し始めたは先生だった。
「聞こえてたと思うんだけど、ゆ…河野先生の話」
ゆ…って、ゆいか、って言いかけたのかな。河野先生の下の名前、ゆいかだったような気がする。普段はゆいかって呼んでるのかな。
「先生はあんなこと言ってたけど、俺はよりを戻すつもりはないから」
正面を見たまま、はっきりと言ってくれる。いつもなら安心できるけど、さっきの河野先生の目。本気なんだと思うと、安心にはならない。
「俺が好きなのは、かの…」
「ゆいかって、呼んでるんですか?普段は」
先生の言葉を遮った。先生から好きって言われてしまうと、聞けなくなると思ったから。
「え?えと……」
すぐには答えてくれなかった。迷っているみたいだった。
「本当のこと、教えてください」
あえて、運転席は見なかった。見てしまうと、ビビっちゃうから。
「……学校の外では、ゆいかって呼んでる。だけど、なんか意味がある訳じゃなくて、ただ、その………」
「付き合ってた頃の呼び方で呼んでるだけで、意味は無い、ですか?」
「……うん」
気づけば私の家に着いていた。だけど、降りられるような雰囲気ではない。
「そうですか。じゃあ、別に大丈夫ですよ。気にしてないですから」
できるだけ平然と。心の中がばれないように声に出した。
「明日も学校だから、もう、降りますね」
車から降りて、運転席の方に回る。先生を見送ってから、家に入る。
玄関を開けると、寒い空気が私を包む。
お腹は空いていたのに、作る気にもならず、食べる気にもならなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。