んっ、と差し出された手に応じて彼の手を握る。
するとその手ごと引き寄せられ、目が合うとニコッとほほえまれた。
こんな優しい彼が、騙してるとか、裏切るとかないよね‥?
「 うん。」と笑いながら鍵を開ける。
お母さんがいない。
そういえば、今日は仕事で遅くなるって言ってたっけ‥‥‥‥。
すると遼くんはいきなりあたしを連れて部屋の中に入り、上に乗りかかってきた。
そして彼は強引に唇を奪った。
突き放そうとするが、力が強くて押し返せない。
「やだ」と途切れ途切れに叫んでいるが、伝わらない。
両手で彼の動きを制止しようとしたら、片手で床に押さえつけられる。
そしてあたしのシャツのボタンをはずし始めた。
不敵な笑みを浮かべて、遼くんは動きをやめない。
そこには、あたしが見ていた遼くんはいなかった。
教室の会話も含め、気づいてしまった。
彼の目的は、最初からこれだったのかもしれないと。
きっとあたしとヤったら『賭け』に勝つのだろう。
あたしと彼に、愛などなかった。
愛華や俊樹の言ってることを素直に受け止めればよかった。
ごめん‥。
様々な感情がぐちゃぐちゃになって、
それを流すかのように、
あたしは泣いていた。
上に乗っている彼がベルトに手をかけたとき、
タイミングよくピンポン、とベルが鳴った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。