ピンポン、ピンポン、とベルは鳴り続ける。
このベルのおかげで彼の動きが止まった。
どんどんとドアを叩く音もする。
そういえば、鍵を閉めてない。
俊樹が家の前にいることに安心して、あたしはありったけの声で叫んだ。
彼は慌てて手で口を塞ぐ。
しかし声が届いたのか、ガチャっとドアを開ける音がした。
俊樹は冷酷な目つきで遼くんを睨みつける。
目があったらそれだけでやられそうな勢いだ。
俊樹は知ってたんだ。
ってことは、あたしの予想は的中したわけで。
俊樹は拳を握りしめ、震えていた。
そう言って植草遼は逃げるようにこの場を去った。
改めて遼くんの本心を言葉で聞いたからなのか、
涙が止まらなかった。
「見えてる。」そう言いながら彼は着ていたブレザーをあたしの胸元にかけた。
彼はあたしのシャツのボタンをかけて服装を整えてくれた。
嫌じゃなかった。
安心したのか、また涙がほろりと溢れた。
優しく頭をなでられる。
俊樹は背中に手を回し、あたしを包み込んだ。
俊樹に抱きしめられると、こわばった身体が安心し、何よりあたたかかった。
2人は、無言のまま抱きしめ合った。
俊樹が急にこうした理由はあたしを安心させてくれるためだと思った。
でも、それだけではなかったことを後で知る。
次の日、俊樹は引っ越した。
あたしにはなにも告げずに。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。