彼女の靴箱に手紙を入れる。
我ながら気持ちを伝えるのにこんな回りくどいことをするなんて、情けない。
でも、これしかない。
ほんとは気持ちを伝えるつもりはなかった。
なぜなら、ずっとあなたのそばにいられるわけではないから。
引っ越しが決まってしまったのだ。
彼女はかけがえのない大切なひと。
俺にはない、まっすぐさと明るさに惹かれて、気づいたら好きになっていた。
多分、幼なじみじゃなくてもそうなっただろう。
もし今、想いを伝えて恋人になったとしても、なれるかすら分からないけれど‥。
万が一、恋人になったとしても俺は遠くへ行ってしまうから、寂しい思いをさせてしまう。
だったら最初から伝えないほうがいい。
幼なじみの関係のままでお別れしよう。
そう決心した。
しかし、この行き場のない想いを自身の中にとどめておくのはとても苦しかった。
ならば彼女が気づかないように伝えればいい。
そして、送り主の名前を書かずに手紙を書く。
受け取ってくれるだけでいい。この手紙を。
そして彼女は誰が書いたかも知らずに受け取った。
この想いが伝わったことを知るのは、
3年後になる。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。