自分から入れといてなんだが…気まづい。すごく気まづい。目すら合わせられない。
こいつ、部屋に入ってから、一切言葉を発していない。…正しくは、コーヒーを飲むかという質問に、おう、と応えただけだ。
聞こえるか聞こえないかという程、小さなため息をつく。いつもの元気はどこへやら…。
ちらっとツキの方を見ると、いつの間にか携帯をいじっていた。こいつ…!
少しイラッとしたが、それが伝わったのか、ツキは携帯をポケットに入れた。
何故か謝ってしまう。それに、不思議と頬が熱を帯びてきた。俺は慌てて顔を俯かせるが、ツキがそれを許してくれなかった。
大きな手に顎を捕まれ、顔を無理やり上げられる。鼻の先がぶつかりそうな程に、ツキの顔は目の前にあった。
俺を見るツキの目は、もはや睨むに近い力を持っていた。流石、元ヤンだけある。
今のこいつに、上手い言い訳も嘘も、多分通じない。言わなきゃ殺すとでも行ってくるような感じがした。
…でも、言えるわけがない。お前が好きだなんて。
なんでも言えっつったろ、と付け足され、不覚にも何も言えなくなってしまう。その言葉と図星だったツキの推測のせいで、俺の脳内はパニック状態となった。
どうする…この際だから、言ってしまおうか?いや、それでこいつが離れてしまったら…やめろ。そんなの俺らしくない。しかし、今言わなくても後の祭りだ。どうする…。
間抜けな声が出てきたところを、柔らかいものが抑える。お互いのメガネがカチンと当たり、俺の思考は一瞬で停止した。
今のが口付けだと理解したのは、ツキの顔が離れた時だった。
生憎俺は、だいぶ前からツキに惚れてる。お陰で、キスも性行為も初めてだ。
ミチの時はそこまでではなかったが、相手が変わるとここまで違うとは…。
アホなんて何度も聞いてるし、何度もそれに反論してきた。しかし、今は言い返すことができなかった。
ただ、こいつが冷たい自分を好いていたのは、とても嬉しかった。
ツキの頬は、少し赤く染まっている。珍しいものを見れて嬉しいが、今はそれどころじゃないな。
つまり、こいつは俺が好きかどうかを、聞きたがっているのだろう。
お前のことが、好きだ…ずっと前から。お前が好いてくれているのが、おかしくなるくらい嬉しいさ。
俺を見るツキの目が、だんだんと曇っていく。表情こそ変化は分かりづらいが、ずっと見てきた俺はわかる。
言わないと…そんな顔見たくない…。
恥ずかしいから言えない。そんなことは、多分無いんだ。ただ、その二文字が出てこない。
歯を食いしばっていると、前から小さく舌打ちが聞こえ、ツキが立ち上がった。
こんなにも、自分の心を読まれたことはない。
思わず顔を逸らすと、今度は顎を強く捕まれ、上を向けさせられた。
拒否権はない、とでも言っている目に、俺は従うしかなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。