時間は流れて帰りのホームルーム。さようならと口々にいう声が教室をうめつくし、生徒達は帰っていく。
私も三日月と廊下に出る。
三日月が再来週にあるテストのことを気にしている。だけど、私は気にしていない。三日月は羨ましかったのか、ドンと背中を殴られた。
痛い。
今度テスト勉強するためにファミレスに行こうとか、勉強あけの打ち上げとかいろんな話をしていたらもう下駄箱についた。私はロッカーの鍵を開けようとポケットをあさる。
ポケットの中にはお気に入りの猫のマスコットがついた鍵がなかった。いまさら教室に帰るのもめんどくさいが、仕方ない。三日月に手を振って教室へと走った。
教室に入ると、蛍がいた。蛍の後ろの前の窓が夕日を差し込んで、蛍の顔が紅く照らされている。思わず、息を飲んだ。今なら聞けるかもしれない。幸いクラスには私と蛍だけ。照らされた蛍の整った顔と、聞くことに心臓の音がドクドク聞こえる。
自分でもびっくりした。声が喉でつっかえた。こんなこと初めてで、恥ずかしくなる。
鼓動が高鳴っていく。まだ、今日あって、一度も話してないのに知ってるなんて、と少し驚いたけど。
恥ずかしくて蛍の顔が見えない。緊張しすぎて、体が震えてしまう。
言った。なんて返ってくるのかと胸が高鳴る。「覚えてるよ」かな…………覚えててくれたなら ────
そう考えを膨らませている時に
返ってきたのは予想外の言葉だった。私のことは覚えてるのに。約束は覚えてないの?約束は?
目の前が真っ暗になる。
私はそう言ってそそくさと、自分の机の中を探す。指に金属の冷たさが伝わって、鍵があるのを見つけた。
慌てて教室を出る。覚えていないの?嘘でしょう?頭の中で色々なことが混ざっておかしくなりそう。自転車置き場に行くと、そこに三日月の姿はなかった。まあ、そうだよね。時間かなり経ってるし…
目の前が滲む
私にはあの約束が全てだった。約束のためになら今まで何だってしてきたし、成し遂げてきたのに。私を支えるものがないならどうすればいいの。
私はその場にうずくまった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。