あなたへ。
この手紙を読んでいるってことは手術に成功したんだね、おめでとう。
本当は僕も一緒に祝いたかったんだけど…それは出来ない。
だって____
移植をした心臓の持ち主、僕だったんだから。
実はあなたに隠していたことがあるんだ。
僕は君に留学をした理由を「将来の夢のため」って言ったよね?
でも、本当は違うんだ。
親から逃げるためにわざと海外の高校に留学したんだ。
でもね、なんで僕が帰ってきたと思う?
それはね、僕があなたの事が好きなんだって気づいたからだよ。
あなたは親から逃げた僕とは違って、きちんと向き合って…とてもカッコよかったな。
こんな人間なんかより君みたいな人間が生きているのが1番なんだって…あなたが倒れた時に思い知らされたんだ。
僕はね、後悔してないよ?
だって、僕は好きな人に命をあげたんだもん。
あなた…僕の分まで、生きてね。
今までありがとう。
私のためになんで命を落とさなきゃいけないの…?
やっと…やっと、自分の気持ちに気づいて……元気になったら、一緒に登校するって約束したのに…。
ふと、夢で言われた遥の言葉を思い出した。
泣いちゃダメだ。
いつまでも引きずっていたら遥に怒られちゃう。
そう思い私は涙を拭い、笑顔でこう言った。
私は遥に向かってそう言った。
もちろん、返信が返ってこないことを知っていながら。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!