突然掛かってきた久遠からの電話。
受話器越しから、震える声で微かに「たすけて」という言葉が聞き取れた。
俺は通話口に向かって大声で叫ぶ。
しかし、久遠の声は二度と返ってこなかった。
俺は大急ぎで家を飛び出した。
とりあえず久遠の家の方へと向かう。
すると、大きなカーブのある坂道へと差し掛かったところで、停車したトラックを目視した。
こんな所で何してるのかと近づこうとした時、足下で何かが光った。
それは、久遠のヘアピンだった。
拾ったヘアピンは髪を挟む部分が折れていて、久遠の身に何かあったことを予感させた。
俺は辺りを見回しながら、叫ぶ。
すると、トラックの運転手らしき人が血相を変えてこちらへ向かってきた。
男は血の気の失せた顔で、途切れ途切れになりながらも声を絞る。
俺はそれ以上は何も聞かず、とにかく崖下へと急いで向かった。
不幸中の幸いとは、このことか。
久遠は怪我こそしていたが、崖自体がそこまで高いものではなかったため、骨を折ったりなどはしていない様子だった。
ただ、何かおかしい。
四つん這いになって、しきりに地面を探っている。
俺はゆっくりと久遠の方へ近づく。
久遠の頭からは血が出ていた。
よく見るとメガネはフレームが曲がり、ヒビが入っている。
フレームが曲がったせいで、上手くメガネがかからないのかメガネが落ちる。
しかしそれを拾っては、また地面を探っている。俺のことなどお構い無しといった様子だ。
俺は久遠のそばに駆け寄り、肩を掴んだ。
久遠は俺を一瞥もすることなく、地面だけ見つめながらそう答えた。
俺はたかだかヘアピンにどうしてそんなに拘るのかと思いつつ、久遠の体を抱え上げた。
途端に久遠の体中の筋肉が緩むのを感じた。
どうやら気を失ったようだ。
とりあえずもう1度ざっと久遠の体を見てみるが、大きな傷はなさそうだった。
俺は久遠を安全なところへ移動させ、坂を登ってトラックの運転手を呼び、そのまま久遠を連れて病院へと運んでもらった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。