時間は瞬く間に流れ、授業が終わり、また、あいつと話せないまま放課後になってしまった。
ホームルームが終わるとすぐに家に帰ってしまうあいつを、私は目で追いため息をついた。
放課後の予定は、【元好きな人】に会うこと以外ない。
約束をさっさと終わらせて帰ってしまおうと思ったが、肝心の【元好きな人】が見つからない。
苛立ちながら構内を探し、図書室にたどり着くと、そこに【元好きな人】は居た。
図書室奥の窓側の席で、何をするでもなくただ1人ぼんやりと座っている。
窓から差す夕日が、彼の目の中で揺れていた。
私はもしかして彼が泣いているのかと思い、一瞬どきりとした。
「探したんだけど」
「悪い悪い」
「で、私になんか用でも?」
「そう。」
「なに?」
【元好きな人】が私の目をまた見つめる。
野球部の練習する声、吹奏楽部の奏でる音楽
その全てが、何故かやけに煩くて
図書室に舞っていた埃が夕日に反射しキラキラ輝く。
その向こうで【元好きな人】は私を見据えて、小さく息を吸う。
なぜか、一瞬あいつの顔が頭をよぎった。
「俺、お前の事が好きなんだけど」
「…え」
時が止まった
ように感じたのは、私だけかもしれない
夕日が私の顔にかかる
頭の中が、全てぐちゃぐちゃに掻き回されたように混乱して、冷や汗が吹き出る。
この【元好きな人】に、この目の前にいる【元好きな人】に、私は
何を言うべきなのだろう。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。