うっすらとした微睡みの中、目覚まし時計の音が聞こえる。夢現も、その居場所に手を伸ばした。
カチッという音と共に鳴り止むそれを、ぼーっと見つめ、現在の時刻確認をする。7時ぴったりを示した針が目に入り、そっと元の場所に戻した。
6月下旬。梅雨の時期には珍しく、太陽がカーテン越しに部屋を照らす朝。その明かりが意識を少しずつ覚醒させていき、眩しさに思わず目を細めた。
重だるい体を何とか起こしてリビングまでの階段を下る。人の気配がないそこには、ラップのかかったお皿だけがポツンと置かれていた。
『温めて食べてね』
そんなメモ書きを添えて。見た目だけでは何とも質素だけれど、母の忙しさをよく知っているから文句なんてない。むしろ、わざわざ作っていってくれて有難いくらい。
恐らくしばらく経っているだろう。冷えきったご飯と味噌汁を電子レンジへ入れた。
それらを食べ終わると、着替えに再び自分の部屋へ。
先程忘れていたカーテンを開けると、窓から覗く人影が一つ。
朝は結構好きだったりする。明るい空は何度見ても気分が良くなるし、一日の始まりって感じがする。
それに。
「おはよう……っ、春くん」
「あ、おはよう」
大好きな人に会えるから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!