第35話

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2018/07/31 03:15
-      💓      - 🌊





耳を澄ませば、聞こえてくる夏の音。
蒼く美しい色に目を見張る。

遠くから自分を呼ぶ声。

辺りを見回す。

日に焼けている砂浜。
肌に染みる潮風。
手を伸ばせば届きそうな青空。

嗚呼、夏だ。

太陽に手をかざしてみる。
指を広げると、
思わず目をつぶってしまうような眩しさ。

息を大きく吸い、ゆっくりと吐く。
満足した。

後ろを振り返り走れば、
お待たせと声をかける。

片手にビニール袋を持っている。
気になって中身を聞くと、
お楽しみなんだとか。

2人で暑いと言い合いながら、駅に向かう。

いつもと違う雰囲気に
1人心躍る。

駅についてから、
電車内の人の少なさに驚く。

こんなに広いのに、
こんなに暑いのに、
2人寄り添って座る。

夏は、ゆっくりと動き出し
だんだんと加速していく。

過ぎ去っていく風景に目を惹かれる。

夏の終わりを垣間見た。

寂しいという感情は
まさしくこれなのだと思う。

隣を見れば、うたた寝をしているようだ。
自分も目を瞑る。

まだ、夏の音は聞こえる。

蒼い、蒼い夏。
広い、広い夏。

揺らめいて、煌めいている。

ふと目を開けた。
もう少しで降りないと。

隣を起こす。

1歩踏み出せば、
夏が終わってしまうような気がした。



夏に別れを告げ、電車から降りる。

長い道のりに、また暑いと言い合う。

家につけば、
アイスが溶けたと
ビニール袋の中身を覗いていた。

夏が恋しくなる。

まだ夏だよ
と言われたが、首を振る。

風鈴の涼しげな音は、全く効かず
冷房を入れた。

夏が消える。

スイカを切るのが面倒くさい。
食べるのをやめた。

空には入道雲が見える。
目だけで感じる夏は微妙だ。

窓の前に座って
窓を開けた。

冷房を付けたまま窓を開けるのは
意味がわからない
と言われ窓を閉じられた。

なぜか上から手を握られる。

なに、と聞けば
なんでもない、と答える。

手の温もりは、
夏のように、自分を包み込むようだった。

このまま身をあずけ、
夏を感じるのもいいかもしれない。

そっと手を握り返し、
愛してると呟く。

幸せそうに、
俺も、なんて言ってくるから
なんだかくすぐったい。

この許されない恋を、夏は許してくれますか。



END.

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