それはひどく晴れた日のことだった。
俺たちは、そう。また皆で集まって、遊んでいたんだ。
昨日は缶蹴り。そして、今日は鬼ごっこ。
山で生まれ、山で育った俺たちの遊びが尽きることはない。
「おーい!こっちこっち!もう~…勇也遅いよっ!早く早く!」
「ふふっ。俺を甘く見るなよ、光希。」
「は?勇也、一体何を言って…どりゃぁあ!?」
「お前、油断してたな~!ハハッ、そこは俺と湊太が掘った落とし穴があるんだよっ!
それに気付かないとは、随分と落ちこぼれたな!」
「くぅ…してやられたね…
まあ良いさ、今度は私が鬼だね。地獄の底まで引きずり下ろすからっ!」
俺たちはほんの小さな頃からこの山で遊んでいる。
どこにどんな木があるか、どんな罠が仕掛けてあるか…。
中学1年生ともなれば、全員が全てを把握してる。
大人は知らない、俺たち5人だけの秘密だった。
「え~。光希が捕まっちゃったの…?やだ、逃げなきゃ…。えと、あーっと…」
「おい、ユリナ!あたふたしてる場合じゃねぇぞ!光希が落とし穴から出る前に遠くへ走れ!」
「…そうだよね!えと、湊太君と敦志君はどこ行ったんだろ…」
「…さーあ。やってくれたね勇也…
私を鬼にしたからには、もう誰も逃げ切れやしないよぉっ!」
「う、嘘だろ光希!もう這い上がって来やがったのか!?早すぎるだろ…‼」
晴れの日には誰かがクタクタになって倒れるくらいまで遊ぶ。
それなのに、その次の日にはピンピンしてまた別の遊びを始めるのだ。
俺たち5人は、いつでも一緒の親友だった。
共にいるのが当たり前。
ばかみたいに騒いで、怒られて…
それでもまた皆でふざけあったりするのが当たり前。
そう、思っていた。
そう、信じていた。
もう一度繰り返す。
それはひどく晴れた日のことだった。
特にその日の夕暮れは、赤く赤く燃え上がるようで、突き刺すような光が目に眩しいほどの太陽だった。
「結局、全っ然勝負つかなかったね~。
いつも通りといえば、いつも通りだけどね」
「確かにそうだな、ユリナ。僕、敦志にいきなり
足首を掴まれた時は心臓が止まるかと思ったよ…」
「しゃーないやろ!俺やって必死やったんや!!」
「いやー、でも今日の一番の名シーンはあたしと勇也の一騎討ち!」
「間違いねぇな。いやぁ、木の陰に追い込まれたときはどうなることかと…」
「ほんまスゴかったわ!やっぱ光希はさすがやな~」
「あんたもね、敦志!」
「皆スゴかったよ。そうだ、そろそろ僕らも帰らないとね。日が暮れたら真っ暗だよ」
「ホントだ、急ごっ!そうだ、一番走るの遅かった人に罰ゲームさせるってのはどう?」
「それええやん!絶対に負けへんで!」
「そうと決まれば…よーいどん!」
俺たちは同時に駆け出した。
…はずだった。
次の瞬間のことだ。
走ろうと足を出したユリナの体が、突如急速に傾き、
宙に舞い、頭から落ちていったのは。
一瞬のことだった。
一瞬のことだったのに、やけにゆっくりに感じられたのは、何故だったのか今もわからない。
全員がユリナの方を振り向き、駆け寄った。
「ユ、ユリナ!?大丈夫か!?」
「ちょっと待ってよ。ユリナが起きない!し、死んじゃった!?」
「落ち着けよ、光希。ちゃんと息をしてるだろ」
「と、とりあえず先生やっ!先生呼んでくるわ!」
「敦志、頼んだぞ!ユリナ。大丈夫か?目を開けろ…」
結論から言えば、ユリナは医者の先生が駆けつけてからすぐに目を覚ました。
ただ、問題はその先だった。
そう、これはひどく晴れた日の記憶。
今から、2年前のこと。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!