窓から吹き込む朝日で、目を覚ます。
…6時。大遅刻だ。
昨日から始まった俺達の夏休み。
初日から遅刻なんて…。
みんなの呆れる顔が目に浮かぶ。
全速力で神社の境内に向かう。
遊ぶ時は、いつも境内が集合場所だった。
俺達の村に1つしかない小さな神社で、確かほんとは長い名前があったはずなんだけど、
「ムラサキ様の神社」
と、皆呼んでいる。
夏の星が輝く夜になると、生い茂った木からこぼれる光が紫色に見えるから、らしい。
今日は町の大きな病院へ、ユリナを迎えにいく日だ。
俺達の大切な仲間、ユリナを。
なんでも、ユリナの病気は突発的に異常の起こる珍しい病気で、普段のときはいつもと変わらない生活ができるらしい。
…ただ、その突発的な異常が積み重なり、体を蝕む。そして、やがて死に至る。
つまり、なんでもないように見えるユリナの体は、病気が確実に進行している。
そんな彼女の余命は、残り約1年。
ユリナには、ほんのわずかな時間しか、残されていなかった。
そして、一昨日のこと。
ユリナが入院をしていた病院から、ユリナの両親に連絡が入った。
それは、担当の医者からの申し出だった。
ユリナの病気は、確実に治る治療法が確立しておらず、今投与している薬の効果もあまり期待できない。
また、治療薬の副作用も激しく、このままではユリナは苦しみ続けることになるらしい。
だから。
だからこそ。
ユリナを日常生活に戻し、あと1年。
幸せに過ごさせてあげるというのはどうだろう、と。
俺達は、その提案を、受け入れた。
ユリナの両親の車に乗せてもらい、町の病院へと向かう。
どんな事情があるとしても、ユリナが戻ってくる。
帰ってくる場所、つまり俺達が暗い顔をしていてはいけない。
たとえ空元気だとしても、ユリナを不安にしてはいけない。
口で確認したわけではないけれど、皆が理解していることだった。
…………。
皆に気づかれるようなことしたっけ。
確かに、俺はユリナのことを気になってはいる。
うん、大好きだ。
でも、皆に察されないように気をつけているはずなのに……。
完全に気づいてしまった。
ここはユリナの家の車の中。
つまり…………
終わった……。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。