第3話

3,そして今。リミットは、あと1年。
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2017/10/07 05:05
窓から吹き込む朝日で、目を覚ます。

…6時。大遅刻だ。
勇也
勇也
ちょ、やっべ!急がねぇと…
昨日から始まった俺達の夏休み。

初日から遅刻なんて…。

みんなの呆れる顔が目に浮かぶ。  

全速力で神社の境内に向かう。



遊ぶ時は、いつも境内が集合場所だった。

俺達の村に1つしかない小さな神社で、確かほんとは長い名前があったはずなんだけど、

「ムラサキ様の神社」

と、皆呼んでいる。

夏の星が輝く夜になると、生い茂った木からこぼれる光が紫色に見えるから、らしい。


敦志
敦志
遅いで、勇也!
遅刻ギリギリやないか~!
光希
光希
ほんとにねぇ。
全く…。我が仲間として情けないよっ
勇也
勇也
う…。
ごめん、完璧に寝坊しちまって……。
今日は町の大きな病院へ、ユリナを迎えにいく日だ。

俺達の大切な仲間、ユリナを。
なんでも、ユリナの病気は突発的に異常の起こる珍しい病気で、普段のときはいつもと変わらない生活ができるらしい。


…ただ、その突発的な異常が積み重なり、体を蝕む。そして、やがて死に至る。
  
つまり、なんでもないように見えるユリナの体は、病気が確実に進行している。


そんな彼女の余命は、残り約1年。

ユリナには、ほんのわずかな時間しか、残されていなかった。





そして、一昨日のこと。

ユリナが入院をしていた病院から、ユリナの両親に連絡が入った。

それは、担当の医者からの申し出だった。
 



ユリナの病気は、確実に治る治療法が確立しておらず、今投与している薬の効果もあまり期待できない。
また、治療薬の副作用も激しく、このままではユリナは苦しみ続けることになるらしい。






だから。




だからこそ。









ユリナを日常生活に戻し、あと1年。
幸せに過ごさせてあげるというのはどうだろう、と。

















俺達は、その提案を、受け入れた。
湊太
湊太
どうだろう、元気にしてるかな…。
光希
光希
なぁに言ってんの。
私達の仲間だよ?
そんなことでへこたれてちゃ困るって!
敦志
敦志
そうやなぁ。
きっと大丈夫や。
ユリナの両親の車に乗せてもらい、町の病院へと向かう。

どんな事情があるとしても、ユリナが戻ってくる。

帰ってくる場所、つまり俺達が暗い顔をしていてはいけない。

たとえ空元気だとしても、ユリナを不安にしてはいけない。

口で確認したわけではないけれど、皆が理解していることだった。

湊太
湊太
やっぱり一番最初に声をかけてあげるのは…。
勇也だよね。
敦志
敦志
そうやな!
勇也、ユリナのこと大好きやもんなぁ~
勇也
勇也
ちょっ!やめろよ…!
俺は、別に…。
光希
光希
はいはい、照れちゃって。
ユリナとお幸せにね~!
あ、でもその前に、ユリナにあんたが自分のこと好きだっていうの気づいてもらわないとね!
…………。


皆に気づかれるようなことしたっけ。

確かに、俺はユリナのことを気になってはいる。

うん、大好きだ。

でも、皆に察されないように気をつけているはずなのに……。
敦志
敦志
なぁに不思議そうな顔してんねん。
バレバレやって。
当の本人がホンマに気づいてへんのがビックリやけどな~
湊太
湊太
ホントだよね~。
いつか振り向いてもらえるように頑張って!
勇也
勇也
湊太まで何言ってんだよ!
って、あ……。
完全に気づいてしまった。

ここはユリナの家の車の中。




つまり…………
光希
光希
勇也は頼れる男ですから!
安心してユリナさんをお嫁に出しちゃってくださいね~
ユリナ・母
そうねぇ。
頼もしいわ。よろしくね、勇也くん。
ユリナ・父
ホントだな。
頑張れよ、勇也君。
ユリナを振り向かせるのは難しいぞ~?
なんてったって、俺が無理だったんだからな!
はっはっはっは!!




終わった……。


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