第7話

カラオケの3秒
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2018/05/27 00:19
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藤枝
もう戻ろうよ
寺島
今行くと確実に怒られるぜ?
藤枝
それは寺島がいけないんじゃん




もう空は晴れていて、太陽が眩しい。

風は涼しく、髪を揺らす。

空を飛ぶ鳥のシルエットが地面に映る。


寺島の横顔に、
昨日と同じようにドキッとした。

さっきキスをしたやつだとは思えない。


寺島
なぁ藤枝
藤枝
なに
寺島
このまま学校サボろうぜ
藤枝
えっ!?
ダメだよ!
寺島
いいから、いくぞ
藤枝
ちょ、ちょっと待ってよ!



寺島が扉を開けて、
猛スピードで階段を降りる。

俺は追いつこうと必死になって走った。


気がついたときにはもう学校の外にいて
寺島の1歩後ろを歩いていた。


俺は息を弾ませながら寺島に聞く。


藤枝
寺島、カバンどうするんだよ
寺島
さっき友達に頼んでおいた



寺島が俺の方にスマホを向けてきた。

スマホには
「今から藤枝と遊ぶからカバンよろしく!」
というメッセージが表示されている。


藤枝
遊ぶって…どこ行くんだよ
寺島
カラオケ
藤枝
えー……まぁ、いいよ
寺島
じゃあはやく行こうぜ!



俺たちは駐輪場のところへ行った。


使い古されてさびている自転車に
寺島は少し乱暴に乗った。


だけど、
俺は家が近いからチャリで来てないんだよな…


俺が駐輪場でもたもたしていると、



寺島
藤枝、後ろ乗って
藤枝
…しょうがないか



二人乗りだということをいちいち気にしていたら
さすがにめんどうくさがられるよな。

そう思い寺島の後ろに乗った瞬間、


寺島が凄い速度で自転車を漕ぎだした。


藤枝
わぁ!?
ちょっと寺島!?
寺島
しっかり捕まってろよ!
3秒で着いてやる!
藤枝
3秒で着くわけないじゃん!
事故らないでよね!!



俺たちは笑いあった。


風が鋭く頬をかすめる。

目も開けられないぐらいの風のなか、

俺は寺島の背中に腕を回して、
振り落とされないようにしっかり掴んでいた。


寺島の背中、温かいな…。



-

藤枝
はは、ピッタリ3分で着いたね
寺島
俺すげぇな



あの風の中、
ストップウォッチを持っていた俺も
凄くないか?

という冗談は置いといて、

俺たちは店に入った。


-

寺島
藤枝、先歌う?
藤枝
いいよ、寺島歌って



本当は歌いたい。

だけど寺島に悪いから、ぐっと我慢した。


カラオケに行こうと言われてOKしたのは
俺がカラオケが大好きだからだ。

と言っても、一人カラオケ。

まぁ、一緒に行く友達もいなかったし。

だけど、1人だから時間とか声量とか
気にせずに歌えたんだけどな。


寺島はもう選曲をして、
マイクを握っているところだった。


画面に曲のタイトルが表示される。


あ、あの時俺が歌ってた曲だ。

そう、居残り掃除の時に歌ってた曲。
この曲は大好きで、毎日何回も聞いている。


寺島が深く息を吸い込んだ。

あー…これはパリピ特徴の歌い方をするな…

とりあえず大声で歌っとけばいい…みたいな?

この曲は結構大人しめの曲だから、
少し残念だ。


寺島が口を開けた……




藤枝
…………



驚いた。


理由、

寺島の歌が上手かったから。


意外だった。

パリピの奴らって、
騒げればいいって概念してるんじゃないの?

寺島は、違うのかな?


曲に声が合ってる。

優しい声で、語りかけるような歌い方。


また寺島にドキッとした。


寺島
よっしゃ、90点超えた!!!
藤枝
寺島、歌上手いな
寺島
そう?
ありがと



寺島が笑う。

その笑顔を見ているとこっちも笑顔になってくる。


今度は藤枝が歌う番だ

と言ってマイクを渡してきた。

画面に
"あの時"好きな曲を聞かれた時に
俺が答えた曲のタイトルが表示される。

寺島
一緒に歌おうぜ




寺島が俺の顔を覗き込んできた。


その時間は、3秒間なはずなのに
なぜか長く感じた。


寺島のまつげの長さ、目の色…
脳裏に焼きついている。







__曲が始まった。

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