今日はやっとバレンタインチョコを渡せられる日。周りは一足早いホワイトデーを迎えている者が多いけどね
希とにこちゃんを除くメンバーに渡して、今はにこちゃんに渡していくところよ
そう、あの本命チョコを渡した本人……
路地の曲がり角を曲がると、その人がいた
これこそ偶然という言葉がよく似合うわね
そういえば、昨日はにこちゃんについてあまり触れていなかったわね。わざと触れなかったんだけどね
私のバレンタインチョコに対する反応が薄いことに少し動揺してしまったわ
かなり飛び上がるかと思ったんだけど
にこちゃんは……なんだかあの頃と何かが変わった。みんなが本当に幸せになれる自分のキャラに変えてみたっていうのは知ってるけど、何を変えたのかさっぱり分からない。でも変わっているのは丸分かりなのよね
身体? 気にしないであげて
にこちゃんの抱きつく力が弱まり自信なさげに俯いた
にこちゃんの手を離そうとしてもしぶとくて離そうとしない。苦しい……
肩にかかっている腕を掴んで振りほどく。その手ごたえはとても緩かった
渡すものは渡したわ。早く希のところに行きましょう
動く足はだんだんと速くなっていった
希は家にいたわ。今でも希は一人暮らしだ。
玄関先で差し出したチョコをまじまじと見つめつつ、私の方を見る
いつものように私は顔に熱を帯びて口を引きつらせる。これは好きになるためのお約束なのよ
希がその言葉を出すのは意外……ではなかったのかもしれない。
メンバーの中でもノリがいい方だ。このくらいなんとでも言えるだろう。
でも、その目はなんだか本気で言っているようにも見えた。
胸の鼓動が速くなっているのが分かった。とても強かったわ。
希はずいっと私に顔を近づけた
や、やめて……!!
ずっと好きだった人にこんなことされると、あまりのドキドキに足が震えて倒れそうになるじゃない
好きな人の押しに断ることもできず、私と希は付き合うことになったのよ
3月になったのにまだ寒い。私はたまに目に入る、人の羨む視線と希の笑顔の明るさを感じて、寒くも暖かくもない空気でちょっとあまり気にならなかったわ
終わりです。書き溜め尽きました。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。