私がケインに手紙を出して2日後。
いつものように家に帰ってゴロゴロしていた私に、一通のLINEが届いた。
…マジできた。
「マジで来たよぉおおおおお!!!!!」
思わずガッツポーズする私。こんなにLINEもらって嬉しかった相手、いつぶりだろう。
文章をまじまじと見返して、ようやく意味を理解する。
…一週間後会うんじゃん!!!
やばいどうしよう…なんだか緊張してきた。
「…変じゃない、よね。」
送ってしまったLINEを見返して確認する。
…あ、既読ついた。
慌ててトーク画面を閉じ、スマホを手放す。
…いやいや待って、一週間後に着ていく服ないし!そもそもどんな顔して会いに行ったらわかんないし!!
先ほど手放したスマホを再びつかみ、私は親友のミクに連絡した。
…ミクにはゴディバのチョコドリ、Lサイズ奢らないとな…。
親友に恵まれていることに感謝しつつ、私は明日に向けた小テストの勉強を始めたのだった。
翌日の放課後。
ミクと共に私は新宿にあるルミネにやってきた。
「これなんかどう??あなたに似合うと思うけど。」
そういってミクは私に何着か服を渡す。
それらを試着して試着して、ようやく選んだのはワンピース。
ミク曰く、「清楚な膝丈ワンピース!!そして薄手のカーディガンで防寒対策!!若干緩い胸元にネックレスをつけることで女をアピール!靴は相手の伸長を考慮して若干のヒールサンダル!これが初デートでビッチだとも男っぽいとも思われない鉄壁のコーデだ!!!」そう。
確かに普段の私は、かなり年齢層が上に見られるような大人っぽい服装か、ショートパンツにTシャツというボーイッシュな服装の二極端だ。
「これなら女の子だと思われるかも…ありがとうミク!なんか自信ついた!!」
「おう、このミクさんに任しておきな!!」
そういって笑顔で親指を立てるミクは本当に頼もしい。姉御肌だなぁ…本当に。
いつかミクにも好きな人ができたら、私も精一杯応援しなくては!!
「ちなみにミクは好きな人とかいないの?」
「いや私彼氏いるし」
「…はい???」
「彼氏いるよ」
「ちょっと待って聞いてない聞いたことない」
「言ってなかったからね。」
「ちょっと待ってぇええ!?いつ!いつできたお前!!!リア充か!リア充なのか!!!」
ミクの爆弾発言のせいで思わず私は取り乱した。
話を聞けば、塾の男子から告白されて付き合うことになったらしい。
でも、
「ん~まぁ、好きだから付き合ったとかじゃないんだよね。告白されて、別に嫌じゃなかったからOKしたみたいな。キュンキュンもしていない。相手はすごく楽しそうだよ??でも私は嫌いじゃないけど…って感じ。ここから好きになっていくのかな、どうなんだろうっていう。様子見の段階かな。」
「なるほど…。」
やっぱり、恋愛って難しい。お互いが好きで始まる恋人関係なんて、いくらあるんだろう。だいたいは片思いからだよね。付き合っていくうちに、相思相愛になるのかなぁ…。
「だから、あなたは今気になる人がいるってことを、大切にしなよ!」
…ミクは本当に大人だ。
「ありがとう、ミク。」
「…んで、彼氏はどんな人なんだ!!!聞かせろ!!!」
ミクに彼氏のことについて追及しながら、私たちは帰りの駅に向かったのだった。
そして、いよいよケインとの再会の前日。
明日のコーディネートから、メイクの練習、ちょっとばかしのダイエット。
『今の自分の精一杯のかわいい』を作り上げて、私はソワソワしていた。
こんな些細なLINEでもドキドキしながら、私は早々に布団に入り眠りについた。
ー翌日。
早起きして入念に身支度を整えた私は、駅前のベンチに座ってケインを待っていた。
「今どこ?」なんて催促をするのもがっついていると思われるのが嫌でできない。
じっと手元を見てケインを待っていると、私の周囲が影になり、頭上から声が降ってきた。
「…あなたか?」
ゆっくりと視線を上げると、高身長の男の子。
「久しぶりだな。元気だった??」
そういってはにかむ顔には、面影がある。
「…ケイン!久しぶり!!!」
思わずベンチから勢いよく立ち上がり、私は興奮冷めやらぬまま一気にしゃべる。
「えぇ嘘!久しぶり!っていうかめっちゃ身長伸びてる!すごいね!というか顔もか、かっこよくなって……あれ??」
ケインにしか目が行っていなかったが、冷静に見ると、ケインの横には見知らぬ女の子がいる。
ニットのセーターにスカート。ふわふわとした髪の毛とうるっとした瞳は、誰もが放っておけない愛らしさを放っている。
そんな突如現れたかわいい女の子に私が唖然していると、
「あ、こいつ。俺の彼女のアイリ。俺の育った街が見たいって言うから連れてきたんだ。」
ケインに紹介されたかわいいその子は、ケインの腕につかまりながら、
「ケインの彼女のアイリで~す。よろしくね、あなたちゃん。」
と、満面の笑顔で挨拶をしてきた。
そんな天使の笑顔に対して私は、
「…え???」
…心底間抜けな返事をするのが精いっぱいだった。
つづく
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!