ぶつくさ嘆きながら傘を指して歩く通学路。
見慣れない風景だけど、まあまあいい感じかなって。
桜の木が川に沿ってる。
自分で言って自分で落ち込む。
どんだけ桜期待してんだよ。
…まぁ期待もするはずだ。
自分の名前と桜で、友達作りに役立ちそうな何かいいネタはないかとずーっと考えていたところだ。
考えていたところだったがこれだ。
桜が散りやがって。
見上げた空に泣き止む気配は感じない
え?
って思った時にはもう遅かった。
私は気付いたら倒れてた。草の上に。
何かが思いっきり体にあたって痛みが走り出して。
体が冷えていく感覚に嫌な予感がした。
自分の姿を見た時の絶望感はきっとこの先忘れないだろう。
当たりどころが良かったのか怪我はあまりしていなかったけれど、真新しい赤チェックのスカートには泥がついていて、キラキラしていたはずのブレザーには雫と葉っぱで緑になってて。唯一無事だと言えば中に着ていた白いブラウスだけだった。
気付いたら風のようにまた走り抜けていった。
濡れた私を置きざりにして。
彼が改造したのかもしれないが、自転車のハンドル部分には傘用のスタンドが付けてあった。傘もそれなりに大きめで、よく考えられている。
空を見上げてみたら、ほんの少しだけ、自分の心と重なっていくのがわかった。
初対面の人間にあんなことをしておいて、よく平気でいられるものだ。この道を通って通学しているということは、またこの道を通れば会えるということだろう。
女子らしからぬ言葉を発して、その場から歩みを進めた。
私の傘は、川にながされていった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。