『 2ヒント:偉くていい子 』
それは 、最後の水泳授業───
私は、大の水泳嫌いだ。
泳ぐ事が全く出来ず何時も皆の足を引っ張ってばかりだった。
「ぷは ぁ!もう…無理…」
水面から顔を ばしゃッ と出し、濡れた顔を必死に手で吹く。
息切れで口からは はぁはぁ と息が漏れる。
「そろそろ卒業ってのに、まだ泳げねぇのかよ」
「まだ泳げないんだって、やば」
「この歳で泳げない奴なんて、アイツぐらいでしょ」
周りから聞こえてくる陰口。
鋭い数々の視線。
皆そうだ
自分より下の人間を見つけるとすぐに笑い者にしだす。
水泳の時間になると、その対象が一気に私へと向けられる
だから、水泳何て 「嫌い」なんだ。
「───」
私は耐えられず、プールサイドに上がりその悔しいと怒りが混じり合った表情を下に向けて更衣室へと向かう。
耐えられない___
怒りが、悔しさが、「悲しみ」が。
何10人から向けられる視線が
声が 何もかも、何もかも。
「 ここで挫けて何になるんだよッ!」
私は私に怒鳴り付ける。
悔しい思いに駆られた自分が嫌いだ。
怒りに身を包まれた自分が嫌いだ。
悲しみに吸い込まれそうな自分が嫌いだ。
自分の顔を叩く。その音が更衣室内に響き渡り 私は自分の暴れ出した思いを押し殺して外への扉を開いた__
「─── 美佳ちゃん。」
目の前に居たのは" 親友 "
陰口と視線に負けた私を心配しに来たのだろう。
「ぁはは、悠まで授業ほったらかして来ちゃったの?私を心配してだったり?」
「当たり前だよ!美佳ちゃんが心配だからさ…」
「私は大丈夫だよ!、だから悠は授業戻りなよ 。」
暴れ出したそうな気持ちを無理矢理押し殺しつつ、作り笑いを彼に向ける。
「─── ほんとに?」
と、何時も明るく優しい声だった彼が何時もと違う声色を聞かせる。
「ほ、ホントだって─── 」
「嘘___。」
彼の瞳は真剣に、私の心を読み取る様にじっと見つめ続ける。
「顔が、幸せそうじゃない。
作り笑いを僕にしても無駄だよ?
だって、ずっと一緒に笑って過ごして来たんだから…分かるよ。
今は意地何て張らなくて良いんだ。
溢れ出そうな気持ちを押し殺してると、何時か心が破裂した様に駄目になる。
泣きたい時は、泣こうよ。大切な人が悲しい時は_傍にいてあげるのが親友だから…自分の気持ちに素直になって。" 美佳 " 。」
彼の言葉は魔法の様に心の中を支配していた" 悔しさ "と" 怒り "を消して「悲しみ」だけが爆発した。
私は彼の元に飛び込む様に抱きつく。
それは、ぎゅっ と強く_強く 。
瞳からは涙が溢れる。
その涙は黒く染まる事のない" 透明 "だった。
「偉い偉い__いい子いい子 。」
頭を撫で乍彼は小さな声で子供をあやすかの様に言う。
彼の胸元に抱き着いていると、私の中で一つの感情が 鼓動を鳴らす。
ドクン__ドクン。
身体が次第に熱くなり、心臓は全身に伝わる様に鼓動を速める。
私は完璧に ── 悠に「恋」した
時々この様な現象が悠と話してる時によくなった。最初は不自然に思ったが次第にそれは進化していき
今、弾けたのだ 。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。