────1年B組 の 教室。
また、悠とは同クラスになり、12月を迎えた時。
「悠って、5日誕生日じゃん。何か欲しい?」
と、隣の席の悠に問い掛ける。
悠の優しさは高校からも健全でクラス全員がその優しさが大好きで彼は一躍クラスの人気者だった。
「ん?僕__プレゼントとか大丈夫だよ、おめでとうって言ってくれるだけで本当に嬉しんだ」
この言葉は幼稚園の頃からだ。
──幼稚園
「悠くん、5日誕生日なんでしょぉ?何かあげるー!!何がほしぃい?」
「美佳ちゃんっ、僕はプレゼント要らないよ。おめでとうって言ってくれるだけですっごぉく!嬉しんだ!」
──小学校
「悠ー!!5日誕生日でしょっ!プレゼント何がいい?」
「ううん、要らないよ。僕はおめでとうって言ってくれるだけで嬉しんだっ」
──中学校
「悠!悠!プレゼント何が良い!?ゲームとか!後は…ペンとか?」
「ありがとう、でも良いよ。僕はおめでとうって言ってくれるだけで嬉しからさ」
これが何年も続いた。
私だけじゃない、悠は聞かれたら誰にでもそう言うのだ__最初は不思議な気持ちで一杯だったのを覚えてる。
「もうっ!ずっとそうじゃんかっ!」
と私は彼に口を膨らませ乍言う。
彼は「えへへ」と小さな子供の様に笑う。もう180もある身長の彼はとても高く大人なのにも関わらず__まるで"弟"の様に感じた。
ふと、彼の学生鞄を目にする。
そこにぶら下がってるキーホルダー 有名なキャラ「くまりー。」の縫いぐるみキーホルダーだった。
これは、中学の頃に要らなくなってしまい悠にあげたもの。
頭に一つ、悠の誕生日について閃いた事があった。───その為に、私は帰りに商店街に行く事を決意する。
── 12月5日 放課後 。
「悠!誕生日おめでとー!!」
それは、1年B組で行われた誕生日会。中学からの親友である斗真と沙弥にクラスの面々が揃って行われた。
黒板には色とりどりのチョークを使った「誕生日おめでとう!悠!」という文字が大きく書かれている。
「ぁ、ありがとう!嬉しいよ」
「悠!俺からプレゼントだぜ!」
「悠っ、私からはこれっ」
と、続々プレゼントを渡し始める。
彼はそのプレゼント達に驚き乍もその明るい笑顔を浮かべ乍プレゼントを一つ一つ受け取る。
誕生日会は、あっという間だった。
皆でカードゲームや椅子取りゲーム等様々なゲームをして盛り上がり教室中が歓声と足音に拍手で騒がしがったが今は___悠と私だけで静かな空間へと変わった。
私は プレゼントを渡せなかった。
彼が皆に囲まれて、余りわいわいとした輪に入るのが苦手な私からしたら無理な事。ほったらかしの黒板を綺麗に消し乍後片付けを済ませ始める。
「───嬉しかった。こんなにプレゼントくれるだなんて…僕の誕生日を祝ってくれる会があるだけで本当に嬉しくて仕方無かったのに…」
「良かったねっ、ずっとこんな事無かったじゃん」
と黒板を消し乍嬉しそうに話す彼に背を向け乍も答える。
このまま彼へのプレゼントは渡せずに終わろうとしていた。
「何よりも__この" くまりー。"のキーホルダーがいっちばん嬉しかった!」
「───!?」
私は黒板消しを床にガタッと落として彼のいる方へ身体事振り向く。
手元に見えたのは私が「彼にあげる予定だったくまりー。のキーホルダー」だった。
「な、なんで持ってるの!?」
「なんでって__僕の机の上に置いてあった…から?」
「……ぁっ!!」
そう。
私は、椅子取りゲームの時に手に持ち続けるのも邪魔になる為に" 誰か "の机の上に置いたのだったが__真逆" 悠 "の机だったとは、思っていなかった。
「でも__美佳ちゃんから渡してほしい。」
「は、はぁ!?__な、なんでっ」
「本当は、直接渡そうとしてたじゃん。誕生日会始まったころからずっと手に持ってた癖にっ」
とクスクス悪戯な笑顔を浮かべる彼に私の顔はほんのり赤く染まり始める。やはり、彼は私に関しては何もかも分かっている。長年いる親友とは、こうも心や行動を当たられるとは__
「わ、分かったよ……」
私は、悠の手からくまりー。のキーホルダーを手に取り改めて、ぎゅっ、と震えた手で握り乍彼に差し出す。
震えやその力は_恥ずかしさのせいだろう、私は目線を彼から逸らし。
「ありがとうっ。くまりー。のキーホルダー__美佳ちゃんから貰ったのは二回目だね…今1番嬉しいよ」
「ぅ、うるさい!ばかばかばかぁ!!」
「ごめんごめん_っ」
優しく私に微笑む彼はくまりー。を持つ私の手を両手で暖かな温度で包み暖かな言葉を贈る。
私の心臓の鼓動はまた、速度を上げ始め恥ずかし隠しに少々大きめな声で彼に小学生感ある暴言を吐く。
─── 彼の手の温かさ、2人っきりでちゃんとプレゼントを渡せた事。
それが、私の心の中でも凄く特別な感情が芽生え嬉しかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!