第9話

自分より親友の幸せ第一 。
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2017/10/16 06:06
「自ら傷つけた跡があったの」

それは、先生から話してもらわないと一生知る事が出来なかったかもしれない話だった。

「___自ら…?」

「えぇ。それは、まだ皆が高校1年になったばかりだった頃よ___」




朝。保健室で、今手元に渡されて来ている全生徒の体調管理について目を通してた時に丁度1年B組の体調管理表を当番だった悠ちゃんが持ってきてくれた。

何時もの様にその優しさ混じりの明るい素敵な笑顔に、自身の疲れてる心も癒されつつあれば、受け取る為に此方へと差し出した悠ちゃんの袖の中から一瞬だが見えたのだ。

不可解な傷ついた跡が___


それは正しく、見ただけで分かる『自らやった』跡。
その光景は、一瞬でこの目に焼き付いた。

「悠ちゃん ッ!!」

私は彼の左手を瞬時に掴み、真剣な瞳で彼を見つめる。それはやってはいけない行為だったからだ。

「ぁ、その__バレ、ましたか?」

「バレバレ。先生にはお見通しよ。
で、それ__何でやっちゃったのかしら?」

彼は保健室の扉をすぐに閉める。
それ程までに見られたくないものだろう__左手の袖を捲り見えたのは何本もの跡 。何か彼のストレスでも爆発したのだろうか__

「その…自分の事が嫌いになっちゃって…」

「自分の事が?それは…勉強とか運動とかで挫折でもあったの…?」

彼は静かに首を2回ほど振るう。
何時も笑顔で優しいイメージの強い悠ちゃん、だが今の彼はとても真剣に見えた底で悲しむ様だった 。

「───父親が、新しい人になったんです。」

その言葉で私は察する。
家族原因 だということに 。

「そのお父さんは優しい人だったんですが…その、たまに帰ってくるとお母さんを…その___」

「大丈夫よ、辛い事は言わないで。成程ね__親を大事に思ってるからこそ、庇うことが守る事が出来なかった自分に腹が立って傷つけたのね…」

「はい…すみません…」

悠ちゃんは深々と頭を下げる。
その表情は「強い思いを持つ少年」で、彼の心の優しさは学校だけではなく、何処でもだっていうのが彼の言葉で脳へと刻み込まれる。
彼の優しさは、本物以上だった__




「__悠が、そんなに…」

「えぇ。表情を見てる限り相当辛かったみたいね…」

先生が話してくれた事には相当頭が整理付かなかった。
悠が、自分を傷つけることをするとは思ってなかった。それに気づけない自分に腹が立ち始めて整理する事すら出来なかった。

───その時、階段から此方へ向かう足音がドア越しに聞こえてくる。

扉の方に目線を2人とも向ける、辺りは真っ暗に包まれている。こんな時間に用事がある生徒等居るのかと思い警戒する。


扉が開かれたと思えば、そこに居るのは「悠の母親」だった。

「やっぱり此処に居たのね美佳ちゃん__先生も、あの日以来ですね…」

「敦子さん_っ!、お久しぶりです…」

"あの日"というのは、悠の亡くなった日の事だろう。
悠の母親は私の方に視線を向ける

「今日は、家に泊まりなさい?、聞いてほしいこともあるの__」

聞いてほしいこと。
一瞬で" 悠について "だと感じる。私は1回程軽く頷いて、高校を後にする。

門の外には小さな車が1台止まっているのが見える。あれは悠の母親の車だろう。幼稚園の頃に乗った記憶が微かにある。

「先生〜!!今日はありがとぉー!」

と、悠の事を教えてくれた先生に手を振る。先生は何時もの様に微笑み返しては軽く此方に手を振り返してくれて__とても、嬉しかった。

車は其の儘、悠の家へと向かって行く。家に着けばまた、見えてくるものが一つや二つは、あるだろうと__そう、信じて。









「悠ちゃん、ごめんね__?本当は言っちゃいけないのに…」



「あの_ッ!!、僕が自分を傷つけてること…斗真や沙弥さん__特に、美佳ちゃんには言わないでください!!凄く心配にさせて、僕のせいで幸せな心を破壊してしまうかもだから…」

「えぇ、話してくれたから__約束は守るわ。」

どれ程友達思いなのだろうか、人に言わずに心の中に押し詰めて過ごすということはとても自分の心に害をなす事だというのに__友達に迷惑を掛けたくない。友達の幸せを大事に考える。こんな素晴らしい気持ちを持つ子がこの世に居るとは .. 。

私の心は温まり乍も彼の気持ちを思うと辛くて、これ以上の言葉が口からは出なかった。


「なのに、約束破っちゃった。
お願い、許して__美佳ちゃんに、貴方がどうして、いきなり皆の前から居なくなったのか、その理由を見つけてほしいから……許してね__」

空を見上げて、私は見てくれてるであろう" 悠ちゃん "にその言葉を送り届ける。──── と

「────」

「…ぇ…?」


それは、微かに聞こえた" 誰かの声だった "




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