第10話

家族思いでもある彼 。
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2017/10/16 06:13
車が、何十分経ってから__あるビルで止まった。
それは悠の住む家 。1度や2度行った事がある為記憶の中に残っている。


「お邪魔します__」

その一言で、彼の家" 2階 "の部屋へと足を踏み入れる。
雰囲気は何処か寂しい感じが伝わってきて、周りは片付けられていない所も唯ある。

「今日は泊まって良いんですか?」

「えぇ、構わないよ。__ほら、疲れたでしょ?お茶どうぞっ」

悠はとてつもなく母親似だった。
だから、悠のお母さんを見ると悠が今目の前に居る、目の前で優しい笑顔を何時もの様に見せてくれている。そんな気持ちになる。


「で__お話しとは…」

先程、言っていた件についての話題を振ると彼女も机を挟んで前の席へと座る。

「実は…悠の家庭内の事で…」

" 家庭内事情 " 悠が皆の前から消えた1番の原因だと私は思った彼の家庭。

自分の身体を傷つけてまで守ろうとした。辛い思いをしてまで守ろうとした。その守る為の強い思いを持った最もな理由__それが聴けるという。

「家は貧乏でね…信宏さんという、前のお父さんは…急に心臓が酷くなっちゃって…それで入院してから、お金に物凄く困ったの…」

「それで、新しい方を見つけたんですね」

「えぇ。不倫__って奴よ 。
相馬さんって方なんだけど…今はもう、悠の出来事があってから嫌になったらしくって、家から出てったわ」

出て行った。
それは多分だが、面倒臭い家庭だと思ったからだろう 。
何て身勝手なのだろうか、と私は酷くその人に怒りを覚える。

それに、不倫___
お金の無さにやりたく無かった行動だが、仕方が無かったと彼女の言葉の小ささや低い事からそう、捉える。

「…その方は、酷い方だったんですね」

と、聞くと何故か彼女は首を横に振る。何故否定したのかが私には理解できなかった。

「__彼は、元々優しい方なのよ。私の働いてるスーパーの常連さんで…お話も面白いし、素敵な方だった…」

彼女は嬉しそうに元旦那の話をする。
それ程までに、愛していたのだろう。

「でも、それは__随分昔の話。」




「__ 」

台所でご飯を何時もの日課の様に作る。鍋からは美味しい匂いが広がり、後ろを振り向くと悠が机に向けて必死に勉強する姿が目に映る。

そんな時だった__ガチャ、とドアが開く音が室内に響き渡り、私は箸を立て掛けて音のした方へと足を急がせて。

「__!おかえりなさいっ相馬さん。」

不機嫌そうな表情をする、二人目の旦那の姿。また酔いつぶれた様に顔を真っ赤にしている。

「また、飲んできたんですか…?」

「__べぇつに良いだろぉ!!何が悪ぃんだよ!?」

「___!!」

彼は怒り狂った様に、机を投げ倒す。

それは私の足へと当たり、そのまま荒ぶる彼から私は距離を置いた 。
毎度毎度の事だ、彼は家に傷をつける。

「この家は俺の金で維持できてんだぁ!有難く思え!!!」

と言って、また家から出て行く。
再度、飲みに行くのだろう、と何時もの事の為見ただけで分かった。

「___」

私は只々黙った儘、床に崩れる様に座り虚ろな瞳でじぃ と床を見つめる。

すると、個室からドアが開き此方へと誰かが来る足音がした。
それは、息子の────悠だった。

「…お母さん__もう、あの人と別れて違う所に行こうよ…!!」

その言葉は、私がこれ以上傷つけられない様にする為、心配な為の声掛けだった。けど、私は首を横に振る。

「ダメよ…あの人は、良い人だもの。悠、お願い信じて。」

彼からの提案はここ何ヶ月もずっと言われてきた事だが、彼を信じている私は否定し続ける。

バン ッッ!!
大きな机を叩く音。
それは、悠が叩いた音だった。

「いい加減にしろよッ!!そんなんじゃ、母さんが傷付き続けるだけだろ!?!苦しい思いをし続けるだけなんだろ__ッ!?」

初めて聞いた 。
悠の怒鳴り声、それは人生で本当に初めての出来事だった。彼は余り人を怒鳴ったり大声を出したりとしない子だった。___本当に、心配しているのだと、その声色で全てを心の中に伝わってくる。

息子の瞳は、とても鋭い瞳で私を見つめる。「怒り」と「何か」に支配しているか、の様に。

「ぅ、…んぐ、っ__」

私の目からは ポツポツ と雨の様に涙が頬を伝う。それは、段々と量が増えて。

何故だろう__普段、怒鳴られる事はされてきたのに、息子に言われると
" 辛い気持ち "が押し寄せ
涙が必然的に零れ始める。

「ごめんね_ごめんね、私が馬鹿だから、悠の気持ちに答えれなくて…ごめんね、ごめんね__」

私は只々謝り続けた。
涙を零しながら謝り続けた。
ずっとずっと、何十回も___
私は 謝り続けた。

背中に、暖かい温もりを感じる。
それは、息子が後ろから__抱き着いて居たから___。

「ごめんね、僕もごめんね__急に怒鳴ったりして、本当に本当に、ごめんね。だからもう、謝らないで…!」

私の心は彼のおかげで一つの光が零れ満ちた 。
__本当に、素敵な優しい息子なのだ



「__あの怒鳴り声を上げてる悠は本当に見たことがなかった…」

彼女の話に、私もまた驚きが全身に伝わる。
悠は幼稚園の時からずっと笑顔で皆に優しく、喧嘩をふっかけられても笑顔で断っていた、争い事や揉め事を起こしたり大声を出す所が想像出来なかった為、彼女の話が頭の中で整理出来ない。

「__お話してくれて、ありがとうございます。」

「いいの…これで、美佳ちゃんが悠の気持ちに気付く一つになれるなら、私は構わないわ。さて__お風呂に入って寝ましょ、部屋は悠のを使ってちょうだい。」




椅子から立ち上がれば、私は即座に悠の部屋へと向かう。そこは悠がいた温もりが微かに残っていた___

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