第2話

PRINCE SAIYUKI
210
2017/10/14 05:00
八戒
八戒
ーーいやー、本当にすみません。
そう言って、深々と頭を下げる八戒さん。
蒼星
蒼星
いえ、こちらこそ。すぐに装置を止められなくて、すみません。なにぶん混乱していたもので。
八戒
八戒
いえいえ、仕方ありませんよ。ご所有の劇場に、突然、見知らぬ男達が現れたとあっては……
蒼星
蒼星
いえいえいえ、聞けば、そちらも急に知らない場所に連れてこられて、困っていらっしゃるとか。
八戒
八戒
いえいえいえいえ……いい加減止めましょうか。はい、そうなんです。僕たちもどうしてここに来たのか、まったくわからなくて。
蒼星
蒼星
そのことは、後でゆっくり考えましょう。どうぞ、まずは汚れを落としてきてください。
八戒
八戒
すみません、ではお言葉に甘えて。



あの後、何とかカラースプレーの装置は止めたものの……三蔵さん達は見るも無残な姿になってしまっていた。
原因となった悟空くんに対して憤る三蔵さん達。そんな彼らをなだめたのは、響也くんだった。
響也
響也
「あの……どなたか存じませんが、その姿のままではお困りでしょう。シャワーと着替えをお貸ししましょうか?」



三蔵さん達……いきなり現れた見知らぬ一行をそう言って、正式に劇場に招き入れたのだ。
三蔵さん達は本当に助かったらしく、私たちにいろいろと自分たちのことを話してくれた。
三蔵さんの持つ経文を狙う紅孩児さん達と戦っている最中、気が付いたらこの劇場にいたらしい。
あなた

(まさか、紅孩児さん達との戦いの最中だったなんて……劇場で戦いにならなくてよかった……)




紅孩児さんと独角兕さん。この二人っていわゆる……敵側の人物のはずだよね……
それなのに……
紅孩児
紅孩児
「事情はわかった。無関係の人間を巻き込むのは俺の本意ではない。ここにいる間は、一時休戦だ」
そう言って、矛を収めてくれたのだ。
あなた

(紅孩児と言えば『西遊記』の中では恐ろしい大妖怪だけど……この紅孩児さんはいい人……いい妖怪なのかも)




今、彼らはカラースプレーで汚れた体を洗うため、シャワールームにいるはずだ。
カンパニーには、レッスン後の汗を流すために大きめのシャワールームがある。
今、向かった八戒さんを含め、六人が一斉に使っても、問題ない大きさだ。


あなた

お風呂はいいとして、あとは着替えだよね。響也くん、どうしようか。

響也
響也
ああ、それなら衣装班にお願いしておいたよ。
ちょうどその時、衣装班の船越くんと甲斐くんが可動式のクローゼットをひいて事務所へと飛び込んできた。
船越
お待たせ!今、貸し出せる衣装を持ってきたぜ!
甲斐
オレはゴージャスなのがいいかなって思ってるよー。あっ、汚れた服は今洗濯してるからね。
あなた

こ、この中から選んでもらうの……?

クローゼットの中には、以前公演で使った衣装がたくさん入っている。
船越
うちでお客さんにも貸し出せるぐらいきっちりメンテナンスしてる服って言ったら衣装ぐらいだしさ。
確かに船越くんの言うとおりだ。でも、中には「これは絶対着ないだろう」と思われる奇抜な衣装も混ざっていた。
あなた

(まあ……本人たちに選んでもらうんだし、いいか)

甲斐
あっ、出てきた!みなさーん!お洋服はこちらですよ〜!
あなた

あっ、じゃ、じゃあ私は一旦部屋を出てるね!

バスタオル姿の三蔵さん達がシャワールームから出てきたのを見て、慌てて私は事務所を出る。


三蔵
三蔵
なんだ……これは。おい、俺たちの服はどうした。
響也
響也
あっ!三蔵さん、悟浄さん!出た途端に、煙草吸うのはやめてください!ここは禁煙です!
三蔵
三蔵
あぁ⁉︎面倒くせぇ。じゃあ、どこならいいんだ。
響也
響也
全館禁煙です!庭も駐車場も駄目です!主宰命令です!
悟浄
悟浄
主宰ってなんだ……?
響也
響也
えっと、……村長みたいなものです!
悟浄
悟浄
マジかよ……この村、地獄じゃねえか。
三蔵
三蔵
チッ……で、服はどうした。
煙草をグシャッと潰しながら、三蔵さんが言った。
船越
ごめんなさい、変わった生地だったので洗濯機はまずいと思って、手洗いして干してます。
甲斐
今日はあんまり天気も良くないし、半日は着れないと思いますよ。
三蔵
三蔵
……さっさと原因突き止めて元の世界に戻るぞ。
悟空
悟空
そんな慌てなくたっていいじゃん。オレは楽しーけど。いつもと違うかっこって、テンションあがんない?
三蔵
三蔵
そりゃてめぇだけだ。
八戒
八戒
悟浄、この衣装なんかどうです?
悟浄
悟浄
うえっ⁉︎いやー……そりゃちょっと……。遠慮しとくわ。
八戒
八戒
おや悟浄、夢色カンパニーの皆さんがご厚意で貸してくださる衣装にそんな事言っちゃバチが当たりますよ?
悟空
悟空
(小声で)問題は衣装じゃなくて……
悟浄
悟浄
(小声で)八戒のセンスだろ。
八戒
八戒
二人とも、何かおっしゃいました?
悟空
悟空
な、なんでもアリマセン‼︎
事務所の中から、楽しそうな会話が聞こえてきた。
あなた

(よかった、うまくやれそう。あ、三蔵さん達、半日はここにいるよねご飯の準備したほうがいいかも……!)

ーー数十分後
悟空
悟空
あなた、このおむらいす?ってのをおかわり!
三蔵
三蔵
悟空と同じものを、もう一皿だ。
悟浄
悟浄
こっちも頼むわ。しっかし、あなたちゃん、料理もうまいんだな。いっくらでも食えちゃうわ。
八戒
八戒
三人とも、少しは遠慮してください。あ、悟空。貸して頂いた衣装は汚さないよう、気を付けてくださいね。
三蔵
三蔵
この状態のサルに、何を言っても無駄だろ。
あなた

わかりました、少し待ってください!

三蔵さん達の驚異的な食事ペースに、私はてんてこ舞いになっていた。
陽向
陽向
うわあ、すごい洗い物の量……おねーさん、手伝うよ。
仁
さすがにあなたちゃん一人に、任せてはおけないね。……君の手料理を狙う男もいるみたいだし。
悟浄
悟浄
聞こえてるっつーの。そりゃ、ムサイ男よりかわいい女の子の作った料理の方がいいに決まってんだろ。
仁
ははは、じゃあとっておきの手料理を披露するよ。ヒナ、フランベの準備を!
陽向
陽向
さっすが、ジンちゃん!はい、ラム酒!
悟浄
悟浄
ちょっ、俺、焼かれそう!
三蔵
三蔵
河童は煮ても焼いても食えんぞ。
悟空
悟空
なんでもいいから、とにかく飯、飯、飯ちょーだい‼︎
あなた

(あれ……)

陽向くんと仁さんが、料理当番を代わってくれたおかげで、やっと一息ついた私は、紅孩児さんと独角兕さんの姿が見えないことに気が付いた。
蒼星
蒼星
あ、紅孩児さん達なら伊織、カイト、昴と一緒に買い出しに行ってくれたよ。
あなた

ええっ、お客様なのに⁉︎

蒼星
蒼星
お世話になりっぱなしじゃ悪いからって。律儀な方々だよね。
あなた

(あれ……でも何か大事なことを忘れてるような……?)

ーーその頃、カンパニー最寄りのスーパーでは。
女子高生A
ねえ、見て、あの人たち。コスプレ……?
女子高生B
え、でもかっこよくない
カイト
カイト
……おい、コイツら連れてきたの失敗だっただろ。
紅孩児
紅孩児
……なぜ、こんなに目立っている?この服はお前たちの国では、普通ではないのか?
昴
(どうしよう、日常で着る服じゃないなんて、いまさら言えない)
女子高生B
って言うか王子じゃない?外国の王子様だよ、絶対!あの格好!
独角兕
独角兕
紅の正体に気づいただと……⁉︎何者だ、あの娘‼︎
伊織
伊織
……帰るぞ!一刻も早く‼︎

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