第3話

主宰の決断
253
2017/10/15 03:06
あなた

おかえり。どうしたの?ずいぶん疲れてるみたいだけど……

三蔵さん達の食欲がやっと落ち着いた頃、買い出しに行っていた伊織くん達が戻ってきた。
カイト
カイト
女子高生に追いかけられるわ……帰ってくるまでに職質3回受けるわ……ウチの役者だって言ってごまかしたが……
紅孩児
紅孩児
すまない。俺達のせいのようだ。
独角兕
独角兕
荷物持ちぐらいはできるかと思ったんだがかえって邪魔してしまったみたいだな。悪い。
昴
いやいや、二人が気にすることじゃないって!
伊織
伊織
ああ、お前達は何も悪くない。……衣装班には後で話がある。
あなた

???でも、みんな仲良くなったみたいだね。よかった。

伊織
伊織
三蔵法師一行は今どうしている?
あなた

あ、今は、響也くん、蒼星くんと事務所にいるよ。ここに来てしまった原因について考えているみたい。

そう、三蔵さん達がいきなり夢色カンパニーに現れた原因は、まだ何もわかっていない。
紅孩児
紅孩児
この世界に来た原因か…………そういえば、玄奘三蔵たちと戦っているとき、近くに変わった妖怪の気配があった。妖気の力自体は大したことは無いから、放っておいたんだが……
独角兕
独角兕
そいつが仕掛けた可能性が高いってわけか。よし、俺達もその話し合いに参加するか。とにかく、原因を突き止めないとな。
紅孩児さん達が事務所に向かおうとしたその時。
あなた

えっ!なに⁉︎

ロビーからガラスの割れる大きな音が聞こえてきた。
事務所ではーー
悟浄
悟浄
……どうやら、おいでなすったようだぜ。
三蔵
三蔵
ようやくか……
響也
響也
な、なんだ⁉︎ロビーの方から……!
悟空
悟空
妖怪だってば、村長。
響也
響也
……え?
三蔵
三蔵
ここは、もうすでに囲まれてるな。
ーーロビーに向かおうとした私達を止めたのは大工さんだった。
大工
こっちは危険だ!武器を持った妙な連中がやってきてる!
三里
みんな地下に逃げてます!あなたさんも早く!
三里くんに促されるまま、地下への階段へ向かうと野木さんと相木さんが皆を誘導していた。
相木
あああ、ど、どうしよう、げ、劇場が襲われるなんて……!
野木
……相木くん。年長者である私達が慌てていると、年少者を不安にさせる。落ち着くんだ。……さあ、君達も早く地下へ。



階段を降りると、キャストのみんなが集まっていた。その中には三蔵さん達もいる。
あなた

響也くん!

響也
響也
あなた!よかった、無事だったんだね。
あなた

いったい何が起こってるの……?

響也
響也
実は……劇場に妖怪が襲ってきたらしい。
三蔵
三蔵
……まあ、十中八九俺達を追ってきた妖怪だろうな。
三蔵さんが煙草をふかしながら呟いた。
響也
響也
三蔵さん、すみません。年少のキャストもいるので、ここで煙草は遠慮してもらえると……
三蔵
三蔵
……責めないんだな。
妖怪がこの劇場を襲った理由は、中に三蔵さん達がいるから。
でも響也くんは、三蔵さん達を追い出したりせず、地下にかくまい、一言も責めなかった。
響也
響也
……困っている人を見捨てられませんから。
三蔵
三蔵
そうか……なら、俺からも一つだけアドバイスしてやる。この劇場を捨てて逃げろ。
響也
響也
……!
三蔵
三蔵
さっきも言ったように奴らは妖怪だ。人間である貴様らは、見つかったら最後、ただではすまん。それに、俺たちを殺すためなら、劇場を破壊しかねん。巻き込まれたくなかったら、さっさと逃げろ。
悟空
悟空
なァ、ちょっと冷たくな、むぐっ⁉︎
三蔵さんは淡々と現状を告げる。悟空くんが何か言いかけたが、悟浄さんに止められた。
黙って三蔵さんの言葉を聞いていた響也くんは、……意を決したように、拳を握り締めながら言った。
響也
響也
いいえ、それはできません。
三蔵
三蔵
仲間の命より、親から受け継いだ劇場が大事か?
あなた

(そんな言い方って…!)

私は、三蔵さんに一言、物申そうと思って前に出た。でも、八戒さんによって止められてしまう。
三蔵
三蔵
……どうなんだ。
響也
響也
劇場が……建物が惜しいわけじゃありません。俺達の公演を楽しみにしてくれているお客さんがいるんです。今ここを放棄すれば、休演になってしまう…………俺達は、お客さんを悲しませたくない。それは、主宰である俺だけの思いじゃない。ここにいる全員の思いだと……信じています。
響也くんの言葉に、その場にいた夢色カンパニーのキャスト全員が頷いた。ーーもちろん、私も。
三蔵
三蔵
…………
蒼星
蒼星
っ!そんな……
静寂を破り、蒼星くんが声を上げた。
蒼星
蒼星
雅輝くんがいない……!
西園寺雅輝くんは、いつもは蒼星くんの事務の手伝いをしているカンパニーでも最年少のキャストの一人だ。
蒼星
蒼星
二階の倉庫で備品の整理を頼んでいたんだ……っ……なんですぐに気が付かなかったんだ……!
響也
響也
蒼星⁉︎今、出て行っちゃ駄目だ!すぐそこまで妖怪が、来てるかもしれない!
地下の扉を開けて飛び出そうとする蒼星くんを響也くんが必死に止めた。
悟浄
悟浄
……で、どうすんのよ?
八戒
八戒
……夢色カンパニーのみなさんには、いろいろお世話になりましたからねえ。
悟空
悟空
洋服も貸してくれたし、メシも食わせてくれた!
独角兕
独角兕
このまま、借りだけ作ったまま帰るのは男がすたるんじゃねえか?
紅孩児
紅孩児
……そもそも、貴様らに合わせる義理はないからな。俺は好きにさせてもらうぞ。
全員の視線が三蔵さんに集まる。
三蔵さんは、響也くんに止められたはずの煙草をゆっくりとふかし、溜息をつくように言った。
三蔵
三蔵
……まあいい、飯代ってことにしておいてやる。
三蔵さんが銃を構えると同時に、地下の扉が開いた。

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