ーーあっという間だった。
地下の扉を壊して、入り込もうとした妖怪たちはあっという間に、三蔵さん達によって蹴散らされてしまった。
そう言って、悟空くんはぴょんと身軽に階段を駆け上がる。
悟浄さんが私の腰に手を回そうとして……笑顔の仁さんに阻止された。
悟浄さんの視線の先には、紅孩児さんと独角兕さん。
二人の周囲には、無数の妖怪が倒れている。
というかもはやすでに……襲ってきた妖怪の中で、立っているものはいなかった。
そう言ったのは、二階から戻ってきた八戒さんだ。
状況を整理すると、妖怪を倒したはいいが、帰る手段を失ってしまった、ということらしい。
舌打ちして額を押さえる三蔵さん。と、陽向くんが何かを思い出したように手をポン、と打った。
以前に、陽向くんと一緒に異世界に飛ばされた際に私は不思議な力を使って、元の世界に戻ってきた。
でもはっきりと自分の意思で使ったのはあの時だけで、しかも自分でもどうやって発動したのかいまいちよくわかっていない。
でも……
みんなからお願いされて、試さないわけにはいかなくなってしまった。
私は意識を集中させるために胸の前で手を組み合わせ、目を閉じて強く念じる。
……私の祈りは届いたのだろうか。遠くの方から、誰かの声が聞こえてきた。
声が聞こえなくなり、ゆっくり目を開けると……
確証はないけれど、最後に聞こえてきた声は三蔵さん達の、味方だったように思える。
そのことを告げると、みんなは安心した表情になった。
ーー数日後
劇場はロビーや一階の一部が壊されてしまったので、修理が入ることになったが、公演は「二週間の延期」という形で実施されることになった。
きっとあの時、劇場を見捨てていたら、こうはいかなかっただろう。
そして、私達はーー
三蔵法師のお供を演じる三人は、あの、彼らのことを思い出して楽しそうに笑っている。
劇場に響也くんの元気な声が響いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!