第4話

夢は西へ……
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2017/10/15 08:07
雅輝
ぐすっ、ぐすっ……蒼星さん……
八戒
八戒
二階の倉庫……ここですか?
雅輝
ひっ、くるなぁ⁉︎
蒼星
蒼星
雅輝くん⁉︎
雅輝
あ、あ、そうせいざん……うあああん!怖かったよぉ‼︎



ーーあっという間だった。
地下の扉を壊して、入り込もうとした妖怪たちはあっという間に、三蔵さん達によって蹴散らされてしまった。


悟空
悟空
外のは片付けてくるな!
そう言って、悟空くんはぴょんと身軽に階段を駆け上がる。
陽向
陽向
ま、待って、一人じゃ危ないよ⁉︎
悟空
悟空
大丈夫だって。こんなヤツらラクショー、ラクショー‼︎
悟浄
悟浄
んじゃ、そっちは猿に任せて、俺はあなたちゃんのガードでもするかな。
悟浄さんが私の腰に手を回そうとして……笑顔の仁さんに阻止された。
仁
悪いけど、間に合ってるかな。俺達の女神は、俺達で守るよ。
悟浄
悟浄
はいはい。ったく、今回はアイツらもいるから、俺の出る幕も無さそうだし。お〜〜お、はりきっちゃって、まぁ。
悟浄さんの視線の先には、紅孩児さんと独角兕さん。
二人の周囲には、無数の妖怪が倒れている。
というかもはやすでに……襲ってきた妖怪の中で、立っているものはいなかった。
八戒
八戒
……え、全員倒しちゃったんですか?それまずくないですか?
そう言ったのは、二階から戻ってきた八戒さんだ。
悟空
悟空
へ?なんで?
八戒
八戒
襲ってきた妖怪の中に、僕らをここに連れてきた妖怪がいたはずですよ。なので全員倒してしまっては……
悟浄
悟浄
確かにな……
紅孩児
紅孩児
……しまった。
独角兕
独角兕
あー……こりゃマズいことになったか?
三蔵
三蔵
ったく。考えなしに、暴れやがって‼︎
悟空
悟空
三蔵だって、めっちゃ銃、ぶっ放してたじゃん‼︎
状況を整理すると、妖怪を倒したはいいが、帰る手段を失ってしまった、ということらしい。
響也
響也
帰り方が見つかるまで、いつまでもここにいていただいて結構ですから……!
悟空
悟空
うーん、ウマいメシがずっと食えるのは嬉しいけど……
悟浄
悟浄
そういう訳にもいかねぇしなぁ。
悟空
悟空
ごめんな、村長。
三蔵
三蔵
チッ……
舌打ちして額を押さえる三蔵さん。と、陽向くんが何かを思い出したように手をポン、と打った。
陽向
陽向
そうだ!おねーさんの力を使えばいいんじゃない?
あなた

えっ?

陽向
陽向
ほら、前に夢の世界で使ったじゃん!七色のトビラを出現させて異世界に移動するやつ!
あなた

えっ?で、でもあれは……




以前に、陽向くんと一緒に異世界に飛ばされた際に私は不思議な力を使って、元の世界に戻ってきた。
でもはっきりと自分の意思で使ったのはあの時だけで、しかも自分でもどうやって発動したのかいまいちよくわかっていない。
でも……


紅孩児
紅孩児
空間移動の術が使えるのか⁉︎
もしや、貴様も高名な法師だったのか⁉︎
独角兕
独角兕
いや、紅。術はともかく、法師は違うと思うぞ。
悟浄
悟浄
あいっかわらず、どっか、ずれてんな、この王子様……
響也
響也
よくわからないけど……俺からもお願いするよ。彼らを助けてあげてくれ、あなた!
みんなからお願いされて、試さないわけにはいかなくなってしまった。
あなた

うまくできるかどうかはわかりませんけど……

悟空
悟空
俺たち、いつまでもここにいる訳にも行かないんだ‼︎なんとか、お願い‼︎頼むよ‼︎
八戒
八戒
こちらに来てから頼ってばかりで本当にすみませんが……お願いします。
あなた

わかりました、試してみます……!

私は意識を集中させるために胸の前で手を組み合わせ、目を閉じて強く念じる。
あなた

(三蔵さん達が元の世界に無事に帰れますように。私の声が聞こえていたら、どうかお願いします。神様、仏様、観音様……!)

……私の祈りは届いたのだろうか。遠くの方から、誰かの声が聞こえてきた。
菩薩
菩薩
悪ガキどもが世話になったらしいな。あいつらのことだ。うるさくて、しょーがなかったろ。ん?なんだ、あいつらの格好は?お前たちの仕業か?なかなかやるじゃねぇか。面白れぇから、あの格好のまま帰ってきてもらうことにするか。あ、干してある服も一緒に持っていかせるから、心配するな。あ、あとこっちから来た妖怪の残骸もだった。後始末を任せるわけにはいかねぇからな。じゃ、そろそろ連れて帰るか。縁があったら、またな。
声が聞こえなくなり、ゆっくり目を開けると……
あなた

あれ……三蔵さん達……いなくなってる。

陽向
陽向
えっ?あれ?本当だ⁉︎いつの間に……⁉︎
昴
裏庭、確認してきたけど、服も消えてます!
仁
じゃあ、無事帰れたのかな……?
確証はないけれど、最後に聞こえてきた声は三蔵さん達の、味方だったように思える。
そのことを告げると、みんなは安心した表情になった。
伊織
伊織
あまりゆっくり話せなかったな、礼も言いたかったのに……残念だ。
蒼星
蒼星
目的のある旅の途中だったみたいだし、引き止めるのはよくないよ。少し、寂しいけど。
カイト
カイト
いーや、皿洗いぐらいはして欲しかったぜ。冷蔵庫の中、食い尽くしやがって。
響也
響也
縁があれば、きっとまた、会えるよ。(煙草の吸殻も、片付けてって欲しかったなぁ……)
ーー数日後
劇場はロビーや一階の一部が壊されてしまったので、修理が入ることになったが、公演は「二週間の延期」という形で実施されることになった。
きっとあの時、劇場を見捨てていたら、こうはいかなかっただろう。
そして、私達はーー
蒼星
蒼星
空いた二週間を使って西遊記を「あの三蔵さん達」の演目に作り替える、か……
陽向
陽向
面白いけど、いっつも無茶言うよね、きょーちん村長は。
仁
ああ、そう言えば、村長扱いだっけ……でも……楽しくない?彼らを演じられるのは。
三蔵法師のお供を演じる三人は、あの、彼らのことを思い出して楽しそうに笑っている。
響也
響也
よし!じゃあ三蔵法師一行が紅孩児たちと出会うシーンから始めるぞ!みんな、定位置について!
劇場に響也くんの元気な声が響いた。

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