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第5話

私の秘密
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2017/10/13 17:32
 ――三月。
 とうとう、爽太との別れの日がやって来た。
 友達たちとは、さっき別れを惜しんで遊んできたらしい。残るは、家族と、悠奈の一家だ。
 道に出した車に乗り込む爽太を、みんなで並んで見送る形である。
「爽ちゃんが、いなくなっちゃうのねえ」
 由紀子はもうボロボロ泣いている。それに比べて悠奈の父・芳文は誇らしそうな顔をしている。
 車を運転していく爽太の父・勇は車の前で静かに立っているが、梨花は機嫌が悪そうだった。
「お兄ちゃんがいなくなると、家が広くなるからよかったわ」
 みんな照れ隠しだとわかっているので優しく見守る。ずっと梨花が悠奈のパーカーの裾を握りしめているのに気づいて、爽太がちょっと困ったように笑った。悠奈は「大丈夫」と目で合図を送る。
 いよいよ時間だった。爽太のお父さんが運転席に乗ってエンジンをかける。
 新幹線の駅までついて行ってもいいと言われたが、悠奈はここで見送ることにした。ずっと慣れ親しんだ、この場所で。爽太の帰る場所である、この家の前で。
「爽太」
 声をかけると、爽太はゆっくり悠奈に向き直った。
 目が合って、一瞬沈黙が流れる。
 そして悠奈は落ち着いて口を開いた。
 言う言葉はもう決めてある。

「元気でね」

 頑張れとは言わない。爽太が頑張るのは、痛いほど知っているから。
 ――だから、どうか元気で。
「ああ」
 爽太はそれだけ言って車に乗り込んだ。
 それだけでよかった。
 あたしの思いは伝わった。そう確信できるから。
 走り出した車を見つめて、悠奈は微笑んだ。

 目を閉じれば思い浮かぶ。
 笑った顔。怒った顔。困った顔。優しい顔。
 全部あたしの大好きな、爽太だから。
 でも、それはあたしの秘密。
 夢を追いかける君には、絶対秘密のあたしの気持ち。
 いつか、話せるときがくればいい。
 それまであたしは、ずっとここで、君と過ごしたこの場所で、待ってるから。
 
 君が幸せでありますように――
 
 それがあたしの、一番の願いです……

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