7年前、これはまだ私が幸せな家庭だった時__…
放課後小学校から帰ってきた蒼依はランドセルを背負いながらリビングの扉を開けた
食器洗いのためシンクに立ちながら柔らかな笑顔で言う人物は蒼依の母親の柚依(ゆい)
娘の少し嬉しそうな笑顔にも気付いた柚依は どうしたの? と口を開く
母親の安心する声に上機嫌でランドセルを開けクリアファイルから紙出し母親の前で2つ折にされたものを開く
『泡宮 蒼依』と書かれた横には 100 という数字が書かれている
算数のテストでとった数字
それを見た柚依は食器洗いから手を止めて濡れた手をタオルで拭くとテストを受け取った
小学校のテストで100点は当たり前という親もいる中柚依は違った
小学校だろうとテストで良い点を取れば褒め自分のように喜ぶ
蒼依はそんな母親の笑顔が大好きだ
蒼依はテストを母親に預けたまま洗面台に行き手を洗った
12月で更に冷たくなっている水に蒼依は顔をしかめる
洗い終わるといつものようにソファーに座りテレビを見る
18時45分のいつもの時間、リビングの扉が開いた
スーツ姿で帰ってきた父親に笑顔を向ける
蒼依の頭を撫でるとスーツを脱いでソファーに置くと自分も座った
父親の蒼一(そういち)は落ち着いた妻とは真逆で元気で明るい
柚依はソファーからスーツを拾い上げるとハンガーに掛けながら、
そう言った
蒼依は母親にしたようにテストを開いて父親に見せた
蒼依の頭を撫でると本人は嬉しそうにした
すると蒼一はポケットに手を突っ込む
蒼依は何かわからず素直に両手を父親の前に出すと手のひらに1つのお菓子が乗った
それはいつも蒼一が持ち歩いているお菓子
蒼一はお菓子が大好きでいつもポケットや鞄の中にお菓子を詰め込んでいる
特に好きなグミは欠かせない
自分の娘を抱きしめ愛情表現をする
父親に抱きしめられ母親に褒められる
蒼依は幸せな家庭に生まれてきた
明日は12月24日
クリスマスイヴだ
毎年泡宮家は母親の特製手作りケーキでクリスマスパーティーをする
今年もまたその時期になった
柚依の言葉に2人はご飯の席へと移動した
それから3人で美味しく夜ご飯を食べた
23時
ソファーに座ってお菓子を食べている夫の隣に柚依は座った
テーブルにはクッキーやポテトチップス、それにグミが置かれている
ゴミ箱には空になったお菓子の袋が沢山入っていた
女性は何歳になっても身体の事を考え我慢をする
それは柚依も同じだ
柚依は蒼一の左肩に自分の体を預ける
笑って蒼一は言うと妻は静かに口を開いた
2人だけの時にしか見せない柚依の嫉妬心やちょっとしたワガママ
蒼一はそれが愛しく感じ柚依の顔をみた
柚依の両肩を持って目を合わせ抱き寄せると、
幸せそうな2人の表情
蒼一の背中に腕を回した柚依
唇を重ね今日も2人は愛し合う
ごく普通の幸せな家族
そんな幸せが続くと思っていた___
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。