その少女の名はエマというらしい。
直径15cmほどの瓶に収められた少女は浜辺を想わせる内装の中で暮らしていた。
「実はそれ、珍しいタイプの瓶詰めだったので輸入したんですが、一年経っても売れないもんですから処分しようかと思ってたんです」
「そう…なんですか?」
薄暗い店内の棚にはいくつもの瓶が並んでいて、その中には少年や少女と思われる子達が入っている。
声をかけてきた店主の女は、少女の名前を言うと困ったように苦笑いを浮かべた。
瓶詰めたちは寝ていたり、遊んでいたり、瓶の中のお菓子を食べていたり、怯えた様子でこちらを見ていたり。様々であった。
私が手を伸ばした取った瓶の中住人エマは、こちらを気にする様子もなく腰ほどまである黒い髪を手で弄び、黒いヒレを水に浸していて___
「ヒレ?」
「?ヒレがどうかなさいましたか?」
店主はきょとんとしていた。
私は自分で言った言葉でありながら、私は目を見開いた。
彼女はただの瓶詰めではなかった。
黒く艶のある髪に白い肌、そして下半身には髪同様に艶のある黒いヒレ。
ライトという星に照らされきらきらと輝く瓶の中の海に、その少女は囚われている。
そう思った瞬間、私の脳には沢山のことが巡った。
それらは元々君のものなのか?瓶詰めにはそんな種類もいるのか?君は、外の世界を知っているのか?
君には、おとぎ話のように好きな人や、家族はいるのか?
ふと、とんとんと肩を叩かれ私は我に返った。
「ぁ、すみません。少しボーっとしてしまいました……」
「まあ、気に入った瓶詰めがいらっしゃいましたらお声かけください。」
「分かりました。」
店主は小さく笑みを浮かべるとそのまま店の奥へと去っていった。
私はというと、また瓶の中の少女を見る。
少女もちらに笑いかけてきた。
噂によると、瓶詰めの販売というのは大変らしい。
良くは知らないが中の子達にも個性というものがあり、一人一人きちんと対応しないとすぐにだめになってしまう。
しかも中には食用目的での購入、殺害を目的とした購入者もいるらしく、販売者はそこら辺も見分けなくてはいけないという。
店の前の看板には「素敵な相棒との出会いに貢献したい」そう書かれていたのを思い出す。
今回私は覗くだけで終わろうと思っていたが、なんとなく気が変わった。
そうして視線を合わせるように屈む。
「一つ提案なんだが、いいだろうか」
「?」
瓶の中の人魚はこくりと頷く。
「うちの子にならないか」
「!!」
私の言葉に目を丸くし、何事かという具合にこちらを凝視する人魚に、自然と笑が零れた。
「嫌ならいいんだ。別に無理強いはしない。君だってまだ未来のありそうな素敵な男がいいだろう?」
「……」
我ながら呆れるほどの自虐に人魚は考え込む仕草をして考え込む。そして答えが出たのか首を横に振り、自らを指さすようにする。
"私でいいの?"
声にならぬ言葉が聞こえた気がした。
「君がいいから、私は君を望んでいる」
何を言ってるか自分でも分からないが、そういう事なのだ。
もしかしたらひとりぼっちの彼女に自分を重ねているだけかもしれないが、分からないままでもいい。
ひとりぼっち同士仲良くしていけるかもしれない。お互い知らない世界が見れるかもしれない。
だから、買われてくれないだろうか?
普通のプロポーズであれば間違いなくフラれていると思うが、少女はその言葉に大きくうんと頷きまた笑った。
喜びを表現するかのように、バシャバシャと叩かれる水面。
「なら、決まりだな」
すいませーん、店主さーん。
私は彼女を両手で抱えると、かすれた声を張って店の奥に向かって店主を呼んだ。
+++++アトガキ+++++
診断メーカー「あの子の瓶詰め」より出てきたやーつでようやく書き終わりました(´・ω・`)話急展開過ぎじゃね?思うわ。書いてて痛いほど分かりました。
文章の構成ってどうしたらいい感じになるんですかね。教えてエロい人。
とりあえず今回の話は老い先短めのおじいちゃんと「瓶詰め」と呼ばれる子達の一人である人魚のお話でした。
次回は何を書くかまだ決めていませんが、多分更新はすると思います。
では
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!