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第1話

一章
1,805
2017/10/17 22:34
京都・東山――。
赤や黄の錦に染まる山の合間から日が昇り、空を覆うほど高く伸びた竹の林に光が差し込む。
風にたゆたう竹葉の向こうには立派な日本家屋がたたずんでいた。
庭の池に赤く染まった紅葉が落ちて、ゆらゆらと浮かぶ。
〈嵐ふく 三室の山の もみぢ葉は〜 龍田の川の 錦なりけり〜〜〜〉
本邸と渡り廊下で繋がった離れから、百人一首の歌を読み上げる声が聞こえてきた。
それはテレビに接続された大きなスピーカーから流れていて、テレビの前には着物姿の男―――矢島俊弥(ヤジマトシヤ)が正座していた。
締め切った薄暗い部屋の中、テレビの明かりが矢島の顔を照らす。
テレビには競技かるたの試合が映し出されていた。
対戦者は共に十代の少女で、畳の上に並べられたかるたをはさみ、向かい合って座っている。
読手が上の句を読み始めると同時に、一方の少女の手が動き、相手の陣地に置かれたかるたの取り札を弾き飛ばした。

少女は立ち上がって飛ばした札を取りに行った。
テレビの前に座った矢島は、畳の上に並べたかるたから、少女が取ったものと同じ札を取った。
テレビでは、再びかるたの前に正座した少女の横顔がアップになった。画面下に『大岡』とテロップが入る。
あごの辺りでカットされたウェーブがかかった明るい茶色の髪に、大きな瞳と長いまつげ、すっと通った鼻すじ――誰が見てもとびきりの美少女だ。
矢島はフッと笑った。
矢島
師と同じ得意札……か

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