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第1話

優しくて切ない嘘
205
2017/10/18 14:21
ある夏、私はやっと大学を卒業し、念願の独り暮らしが始まった。
「バイト、はやく見つけないとな〜。はぁ、やっていけるかな〜」
私は、ため息まじりで少し嬉しいながらも呟いた。
数日後、私はやっとバイト先を見つけることができ、少し緊張しながら職場に向かった。パン屋さんだ。お店に入ると、香ばしくていい匂いが一気に私を包み込んだ。ゲージに並べてあるパンに見とれていると、中から先日面接のときにお世話になった店長さんが出てきた。私は急いでお辞儀をし、緊張で片言になりながら挨拶をした。すると、店長さんは笑顔で
「今日から君の面倒はこいつが見るから、困ったことがあったらこいつに何でも聞いてくれ」
「涼介、みゆさんは今日からここで働くことになったから頼むぞ!色々、教えてやってくれ」と言ってくれた。
「分かりました、店長。みゆさん、分からないことがあったら何でも俺に聞いてね。」
「はいっ!」
いいひとでよかった〜、そう思いながら私はその日から毎日一生懸命仕事をこなしていき、やっと仕事にも慣れてきた。
こうして、私と涼介は仲を深めていき、今では恋人関係になった。
ある日、私は涼介とデートの約束をしていた公園にちょっと遅れて着いた。涼介は既に公園に着いていてマスクをしてちょっと咳き込みながら私を待っていてくれた。私は、急いで涼介のところに駆け寄った。涼介は私に気づくと笑顔で手を振って駆け寄ってくれた。私は、マスクのことが何となく気になり、
「涼介、もしかして風邪引いてるの?風邪だったら家で安静にしてなきゃ!」
と言ったが、涼介は
「風邪じゃないよ、ただの予防だよ〜」
と言ったので私は、なんだ〜。心配したのに〜
と思いながら
「そうだ!〇〇街の〇〇店に行かない?この前、広告で見つけて可愛いから行きたい思ってたんだけどなかなか行けてなくて。人が多いいけどいい?」
と涼介に聞いた。涼介は一瞬、顔が困り顔になったような気がしたけど
「いいよ、行こう!」
と言って私が迷子にならないように手を繋いで一緒に行ってくれた。私は、涼介の優しさに少し顔が赤くなるのを隠しながらついて行った。お店についたときには人が沢山いたけど私にとってとても幸せな時間だった。
翌日、私は涼介に昨日のデートが楽しかったとメールで伝えると涼介からすぐに返信が来た。
「今度は遊園地に行こう?みゆが行きたいってこの前言ってたよね?いつ、空いてる?」
と来たのだ。嬉しさで顔がニヤけるのを抑えながら来週末に行けると返信した。
そして数日後。
今日は、遊園地デートの日!私は何を着ていこうか散々迷った結果、少し大人っぽいけど大人過ぎない私の一番のお気に入りの服を着ていくことにした。そして待ち合わせの時間、涼介はいつものように派手すぎず、でも少し色気のある服を着て待っていた。そして、あっという間に楽しい時間が過ぎ夕方になった。私達は、楽しかったね〜と言いながら二人で手を繋いで、家まで送ってくれた。
そして何日か経ったある日、涼介は急に職場に来なくなった。私は心配になり、涼介の家に行った。でも、涼介は家から出てくる気配はなくどこかに出かけているようだった。私は涼介に電話をすると、
「あっ、みゆ?ごめんね、心配かけて。お母さんが急に倒れて当分、実家に帰ることにしたから、ほんとにごめん!また、戻ったらデートいっぱいしようね!あと、沢山俺が居なかったときの話聞かせてね。」
と言って電話が切れた。少し、涼介の声がまるで泣いた後のように鼻声だったのが気になったが、涼介の声も聞こえたし、無事で良かったと安心した。
それから何ヶ月も経ったある日、わたしのもとに一本の電話が掛かってきた。私はその電話を聞いて、驚きと悲しさとなんで?という気持ちと受け止められない気持ちでいっぱいいっぱいでその場に立ちすくむ事しか出来なかった。
その電話は涼介が心臓の病気で亡くなったという電話だった。私は、嘘だと確信するために急いで指定された病院に向かった。が、私の目の前に横たわっているのは、確かにあの優しくて頼もしくて、私の大好きな涼介で間違いなかった。私は、その後の記憶がショックで曖昧だが一日中、涼介の手を握りしめたまま泣き続けてそのまま寝てしまったようだ。私は、目が覚めてもその事実を受け止められなかった。でも、なぜ涼介が亡くなったのかが気になり、医者の元に走って行った。医者に私が知ってる全てを話すと、医者は納得したように無言で頷いた。そして
「実は、君には教えるなと涼介くんに言われていて今まで話さなかったし、君を病院に呼ばなかったが、涼介くんは幼い頃からこの病院に通っていて、生まれた時から心臓の病気を持っていたんだ。だから、彼の心臓には心臓の働きを助ける補助のようなものが入っていて、その機械は繊細だから、人が沢山いるところはケータイなどの電気機器の電磁波で、狂ってしまったり、心臓に負担がかかってしまうから、なるべく人が沢山いるところは避けるようにと言ったんだけど、彼女とデートをすると聞かなかったから急に心臓発作が起きて倒れてしまったんだ。それで、何日か入院していたけど、最後まで彼女の話を幸せそうにしながら亡くなってしまったんだよ。」
と教えてくれた。私は驚きと悔しさでもう一つ気になることがあったので
「涼介は、私にお母さんが倒れて看病するから実家に帰ると聞いたんですが、。」
と言った。すると医者は
「涼介くんのお母さんは、彼が中学生のときに交通事故で亡くなったよ。多分、君を心配させないためにわざと嘘をついたんじゃないかな?」と教えてくれた。
確かにそうだ。あのとき、涼介の声がまるで泣いた後に聞こえたのは本当だったんだ。自分は死ぬかもしれない、だからこれが最後の会話になるかもしれないと思って無理に明るく振る舞ってくれてたんだ。ほんとは泣きたいのをグッと我慢して話してくれたんだ。それに、この前人が沢山いるお店に入ったのもほんとは苦しかったんだ。なのに、私はそれに気づかず、、。そう思うと、急に胸が苦しくなってきた。
すると、医者が私に一通の封筒を渡した。
「涼介くんが入院中に書いて、もし俺が死んだら、彼女に渡してくれといって渡された手紙だよ。」
中を見ると、涼介からだった。
その手紙には私への今までの感謝が沢山書いてあった。そして、最後の文に、「最後の最後に嘘をついてごめんなさい。でも俺は、いつだってみゆの事が大好きだったし今、この手紙を書いてる瞬間だって大好きだよ。これは嘘じゃないから。俺は、いつだってみゆの心の中で生きてるから。じゃあね。」と書いてあった。そしてよく見ると、文字が涼介の涙で滲んでいた。
私は、それを見た瞬間、涙が止まらなくなった。視界が涙でぼやけ、脳裏に今までの涼介との沢山の思い出がよみがえった。私は、手紙を握りしめ、走って冷たくなった涼介のもとに行った。走って疲れたとか、息が切れたとかどうでも良かった。ただ、早く涼介に会いたかった。そして、言いたかった。
「私は、嘘をついてほしくなかった。もっと、涼介の側にいて、少しでももっと沢山の思い出を作りたかった。でも、そんな優しすぎるところも、全部含めて、涼介が一番大好きだよ!私、頑張るから!涼介の分も、沢山たくさん、生き続けるから!!」と。

(これは完結編なので2話はありません)

作・みゆ

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