あの日は、本当に突然だった。
母の携帯にかかってきた1通の電話。
「 こちら直美さんの番号でお間違いないですか? 」
「 弘光さんが事故に遭いました ─── 」
「 至急、汐谷病院までお越しください 」
10年前の12月23日。
父は、交通事故で亡くなった。
***
人は死んだらどこに行くんだろう。
物心ついた頃から考えていた。
漫画やアニメで見たことがあるのは、天国と地獄だった。
人は、死んだら死ぬ前までの行いの良し悪しで天国行きか地獄行きかが決まる、と。
地獄の描写は本当に恐ろしいもので。
子供ながら、私は地獄には行きたくないと思った。
そして、大好きな家族や友達も、死んだあと地獄には行ってほしくないな、と思っていた。
あの日、
電話を受けて母と駆けつけた病院。
私達が到着したときには、もう父は亡くなっていた。
病院に運ばれたときからギリギリの危ない状態だったらしい。
繋いでいる母の手が、少し震えているのを感じた。
互いに礼をし合う。
私は 母の落ち着きなく泳ぐ目線と、強張った表情を見上げていた。
彼は自分の手を合わせ、指を絡ませた。
そのまま遠慮がちに目を伏せる。
母が深くお辞儀すると、医者と看護師も頭を下げた。
我慢の限界を迎えつつあるのか、母の目には涙が滲んでいて、今にも溢れそうだった。
病室を出ていく医者と看護師たちに もう1度母は頭を下げた。
そう優しく言って、最後の看護師が病室を出た。
ドアが閉まった後、母は下げていた頭を上げ、
顔に白い布を被せられたままの父を見ながら、涙をこぼした。
小さく私が呼ぶと、ぴくっと反応する肩。
慌てて涙を拭き取り、私の方に向き直って しゃがみ、視線を合わせる。
早口で話す母。
私を安心させようとしてくれてるのは分かっていたけど、でも、
彼女の無理矢理作った笑みが心に痛かった。
母は戸惑った表情のまま、私を見つめる。
言葉に詰まってしまって、それからは上手く言えなかった。
そのかわりに、だんだんと視界がにじんできて、正面にいる母の顔が歪み出した。
それはすぐに目から溢れて、頬に伝う。
力が抜けて、病室に座り込んで泣いた。
それを見た母も、泣いた。
私を抱きしめて、何度も頭を優しく撫でてくれた。
クリスマスを前に、街はイルミネーションが光って、楽しげな人たちばかりなのに。
どうしてこうなったんだろう。
サンタさんに、新しい人形をねだったからだめだったのかな。
わがままなお願いだったかな。
サンタさん、お人形もおもちゃもいらないから
お父さんを返してください。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。