幸い、誰にも止められることなくロビーに着く。
入場許可証を受付に返し、外へと向かう。
不意に涙がこみ上げてきた。唇を噛み締める。深呼吸。
涙を拭き、早足でもう一度歩き出す。
不意に腕を掴まれる。
後ろを振り返ったが涙で霞んで前がよく見えない。
でもこの声…
ある人のことを思い浮かべた。
思わず声が出る。
涙を拭って見るとそこには…
思った通りの人が立っていた。
モトキさんの優しさに触れて一度拭いたはずの涙が
大粒になって頬を伝う。
それに困惑したのか、モトキさんはあたふたしている。
取り敢えずどっか座ろっか。
そう言ってモトキさんは運動施設内のカフェテリアへ連れて行ってくれる。
私は状況がうまく飲み込めず、ただついて行くしかなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!