私は恐る恐る口を開いた。
暖かい声で最初に喋ったのは運転手だった。
西園寺時雨と名乗る人はバックミラー越しに私に優しく語りかけてくれた。
3つ上って事は、19歳…か。
優しく語りかけてくれるからか、少し緊張が和らいだ。
未だ私の腕を掴み続ける腕の主を見る。
成弥 蒼夜…―――――
スッと伸びた高い鼻に切れ長でどこか遠くを見つめていても綺麗な瞳は藍色だった。
無造作に伸びた髪をワックスか何かで左に流している。チラリと見える耳のピアスは車が揺れる度にキラキラしている。
思わず見入ってしまった。
成弥さんにすごまれて、バッの顔を伏せた。
舌打ちをされてしまった。
ハハハと笑う時雨さんは私に気を遣ってくれてるのだろう。
不知火さんはこっちを全く見ようとせず、窓枠に肘をついてただ外を眺めていた。
勇気を振り絞って聞く。
…は????
何から?
逆に危害被ってますけど…。
私はハッとする。
全て口に出てしまっていたようで、成弥さんの顔が強ばる。
西園寺さんが申し訳なさそうに言った。
質問がどんどん溢れてくる。
成弥さんは静かにそう呟いた。
意味がわからない。
どういう事?
それに、それって、
私の言葉を遮る様に横の路地から数台のバイクが大きく吹かしながら飛び出してきた。
拍子に車がぐにゃりと避ける。
私は成弥さんにもたれかかってしまった。
私はすぐに起き上がって謝罪した。
気がつけばバイクは全速力で追って来ていた。
怖い。
ノーヘルで金髪の3人組。
制服の様な格好をして、ブンブンと吹かしながら追いかけてくる。
運転手に叫ぶと了解したかの様に車のスピードが上がる。
私は何が何だかわからなくて、名前を呼ばれた事に気づかなかった。
車は路地を右左と曲がり角を利用しながら進む。
バイクも負けじと追ってくる。
その瞬間、私の体はふわりと誰かに包まれていた。
その体は大きくて、柑橘系のいい香りがした。
車は急ブレーキをかけ、止まった。
その瞬間、バイクが転倒する音がした。
車はバック走行をしだす。
怖い怖い怖い。
またバイクが、転倒する音がすると、車は通常走行を始めた。
私の体から剥がれていく彼。
私の顔を覗き込む瞳はどこか悲しげだった。
私はまたその瞳に見入ってしまっていた。
それから目的地まで終始無言で、
私はただひたすら、外を眺めていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!