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第1話

私は神様
32
2017/11/08 10:42
樹神 紬(こだま つむぎ)はごくごく普通の女の子だ。なにかが飛び抜けているわけでもなく、特別可愛いわけでもなく、勉強は少し苦手な子だった。だけど彼女は少し周りと違うことができたりした。聴力が人より優れてたり嗅覚に関しては異常と言っていいほど良かった。

そんな紬の生活が変わったのはある春の夜。
それはそれは星の綺麗な夜だった。

塾の帰り道、一人で歩いていると、突然前からふわっと男女の二人組が現れた。同じくらいの年のように見えた。だが、他とは何かが違う。綺麗な女の子とかわいらしい男の子。二人のまとってる空気がなぜかほんのり光って見えた。(蛍…?)そう思った。女の子は「はじめまして。私は乙葉と申します。」男の子は「僕は律(りつ)と申します。」と名乗った。乙葉は「貴女は神なのです。15になるとこの事をお知らせする義務があって参りました。」と言った。「…は?ごめんなさい、そういうのは興味ないので。」紬は逃げようとしたが、「お待ちください!」と律に言われて思わず立ち止まった。律は、「確かに、急にこんなこと言われたら信じてもらえないですよね。では、私達と共に来てくださいそうしたら信じていただけるでしょう。」そう言って有無を言わせずに乙葉と紬の手を握った。「ちょっと!何するのよ!」紬は手を離そうとしたが、その次の瞬間まばゆい光に包まれ、力を入れることが出来なくなった。目を開けると、まるで絵に書いたような世界に立っていた。それはそれは美しい自然いっぱいの場所だった。「わ~!すごい!なんて美しい所なの!?」言った瞬間ハッとした。「声が…違うんだけど…」下を見たら服も綺麗なドレスに変わっていた。そして横から黄金の髪がおりてきた。「何?どうなってるの!?」乙葉は、「貴女は神だと申し上げました。そしてここは」神達の住む世界、『神界(しんかい)』です。貴女が住んでいた人間の世界は『人界(じんかい)』、そして死んだら行くあの世は『冥界(めいかい)』。この三つの世界から成り立っているのです。」律は、「そして神界はそ色んな神様や妖精が住んでいて、それぞれのお役目をしていらっしゃるのです。貴女は森の神、つまり自然すべてを治める国王と女王のご息女なのです。」と言った。「もうどんな事実も受け止めるわ。こんな世界に連れて来られたらそんなメルヘンチックなことも信じるしかないわね。」それを聞いて二人はホッとしたように顔を見合せた。「じゃあ私のお母さんとお父さんも神様だったの?」「いいえ、違います。貴女は2つの世界で生きている。だから、2つ体があるでしょう?」紬はてっきり見た目が変わったのかと思ってたので、少しがっかりした。「貴女は神界ではこの体で生きているのです。だから、この体を産んだ両親と、人界での体を産んだ両親がいる。ただ、15歳になるまでは全ての記憶をとりあえず預かっておかなければなりませんでした。」紬は意味が分からずに、ただただ呆然としていた。「じゃあなんで私は神様なのに人間として生きていたの?」律は苦い顔をして、「そこを聞かれるとは思ってなかったです。貴女からしたら嫌な話かもしれません。神様は産まれた時に王族の者は必ずその子を占います。魔法を使うので人間みたいの占いとは違います。当たらないということは絶対にありません。そして貴女は占いで『鬼のように酷い者になる』と言われました。だから、国王陛下と女王陛下は貴女を人間の世界に留学させたのです。人間の夫婦に貴女を宿させ、ちょいちょい試練を与え、職務の合間に見守っていたのです。」紬はそれを聞いて切なくなった。「そんなに私のこと大切にしてくれてる両親のこと知らなかったのね。でも、産まれてから人間の世界に行ったってことは神界では私1つ年上なの?」乙葉は「1つだけです。そんなに変わりませんよ。神様は不死身ですから。」と答えた。「え!?不死身なの!?」「えぇ。」「じゃあ死なないの!?」「まぁ死ぬ条件がいくつかあって、その条件を満たさない限りは。」爆発したように質問してきた紬に律は少し安心した。違う世界に来て戸惑っていないか心配だったのだ。「貴女は魂を神界と人界を行き来させていました。人界で寝てる間にね。」「じゃあ人界で起きた時は神界では気絶してたの?」紬はゾッとした。一人でいるときに気絶したら犯罪(巻き込まれるではないか。「魂は粉みたいなものだと思ってください。8割は人界、2割は神界で魂を使ってるんです。それを寝てるときだけ、10割神界で使うようにしてるっていうだけです。その度に私と乙葉で記憶を返しては預かっていたのですよ。それも今日でおさらばですがね。だから一見普通に見えますが何かを喋るほどはできないのでお供の者が欠かせないんです。」安心した。変人扱いされていたらどうしようかと思った。「今から記憶をお返ししましょう。もう預かりません。」そう言って乙葉はカバンの中からビンをだした。そこには綺麗な光が入っていた。律がそれを受け取り、頭の中へ光をそっと入れた。すると、小さい頃からの神界での記憶がだんだん蘇ってきて、紬は「そうだわ。あなたは乙葉と律ね。なんで敬語なのよ。」と笑った。「やっと思い出したのね。一応正式な儀式なのよ。私達一応あなた専属の妖精だから敬語にしなきゃ。」と嬉しそうに抱きついた。「えぇ。思い出したわ。母様と父様のことも。3人の兄様と3人の姉様のことも。私のこっちでの名前が『エマ・ラヴァーズ』ってこともね。」そして紬…いや、エマは微笑んで「帰りましょう。私達の家へ。」と言った。

お城へ帰ると、美しい女性が立っていた。「お帰り、エマ。ようやく帰ってきたな。」とニッコリした。「ただいま、母様。」エマもニッコリした。そして自分の部屋に戻ると、「あぁ、私、そういえばこんな姿だったわね。」と鏡を前に言った。そこにはそれはそれは美しい少女がいた。長いまつげが影をおとし、大きな瞳は空や海のように青く、白い肌はまるで雪とミルクのよう。真っ赤な唇はリンゴのようで、化粧をしているように美しかった。風に揺れる黄金の髪が何人の男を虜にしてきただろうか。エマは鏡の中にいる自分に、「久しぶり。」と微笑んで、部屋を出た。新しい生活が明日から始まるのだ。



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