三上が開けたのは、グラウンドを出て右方の体育館へ行く途中にある、男子ソフトテニス部部室のドアだった。
何気に入るの初めてだ……。
そう思ったのもつかの間、バンッ、と耳元で大きな音がした。
驚いて顔を上げれば、迫ってくる三上に気付く。何をされようとしているか一瞬でわかった。――キスだ。
ドアはすぐ側にあったが、両手で壁ドンされていて逃げ場がない。
えっ、待っ……!
私は咄嗟に三上の口を自分の手のひらで覆った。
「……あ、…………悪い!!」
我に返った三上が、顔を真っ赤にして私から離れ反対側の壁まで一気に後ずさった。
少し罪悪感や不快にさせたかもという不安などもあった私だが、私以上に動揺している三上が面白くて、全部吹き飛んでいった。
「ふっ……」
笑いが抑えきれずに溢れる。ふふっ、と声が出てしまい、三上の視線を感じた。
「……急がせたくなかったけど、返事……聞かせてくれねぇか?」
え、と思って三上を見る。三上は床に座り込んで、顔を片手で覆っていた。
「正直結構期待してたり……して……その、聞きたい……」
項垂れるようにだんだん頭を下に下げていく三上。
……なんか、本当ストレートでこっちまで照れる。
てかわかってなかったんだ。とっくにバレてると思ってた。
もう、三上を嫌いじゃなくて――――
「好き」
静かな部屋に、私の声が染み渡る。
「三上が好きだよ。今までいろいろごめん。
付き合ってください」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。