第58話

“両想い”
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2019/12/27 10:37
『恋人』の日々は、それまでと違った。

「……はよ、あなた」

「……おはよう」

朝、待ち合わせ場所で交わす、どこかぎこちない挨拶。

触れそうで触れない距離に少し緊張しながら歩く通学路。

たまに話して、後は無言。

沈黙がいくら続いても、苦だと思ったことはない。

「おはようあなたちゃん!」

「おはよーあなたー」

教室の扉を開ければ迎えてくれる友達。

「やっほーあなた」

目が合えば無表情をやわらげて微笑んでくれる大切な人。

なんだか、いろんなことに感謝したくなった。

「……いつもありがとね、怜」

「え、――うん。いきなりどうしたの?」

「さぁ……唐突に言いたくなって。浮かれてるのかも」

喋りすぎた、と思い、適当に別れを切り出して怜に手を振り歩みを再開する。

――この前由麻が貸してくれた少女漫画のモノローグであったっけ。


《世界がキラキラして見える》


もちろんそんな現象は起こってない。至って普通の世界だ。けど……。

「お前今日部活来ないのか?」

はっきり聞こえた低音にドキッと心臓が跳ねる。


――騒がしい廊下の中でも、三上の声は絶対聞き分けられるようになった。


「おう。課題終わってなくてな、終わらせねーとやべーんだよ」

「早くやっとけよ……。まぁ、頑張れ」

隣の男子にそう言った後、三上の目が前――私の方向を向いた。

存在を認識し合い、すれ違う一瞬、横目で見つめ合う。

そして何事もなかったように歩き続けるが、胸に手を当ててみると、心拍数は確実に上がっていた。

……あれから、一週間か……。


「……慣れないな」

私は独り言を呟いた。


「……慣れねぇな」

同じ頃、三上も独り言を呟いていた。





相変わらずイケメンは嫌いだ。最低なあの男を思い出す。

でも、三上のことは――――好き。



「……イケメンだけど、顔だけじゃないから」

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